132 魚料理
魚を探し泳ぐ。ちょっと目が痛いくらいで普通に泳げるな。
……。
居た。
魚だ。アジみたいな魚だな。魚が泳いでいる。
草紋の槍を構える。
突く。
スカッ!
ひょろりと避けられる。んなろう、魚のくせに避けやがった! 次は外さない! まぁ、でもさ、さすがにスキルを使って魚を貫くのは負けた気がするなぁ。
と、とりあえず、もう一度だ。
一度水面まで戻り空気を取り込む。そして、また潜る。
居た。
魚だ。
今度は逃がさないぜ。
動きを見極め、突く。
命中ッ!
よっしゃぁ、魚をゲットだ。思っていたよりも楽勝だったな。と、このまま海草も採ってしまおう。ゆらゆらと揺れている昆布ぽいものワカメぽいものを引っこ抜いていく。昆布とワカメって何が違うんだろうな。同じものにしか見えない。まぁ、これで海草もゲットだ。
ん?
と、そこで何かお尻の方がもぞもぞしだした。
ん、んん?
慌てて振り返る。
ん!
魚が俺の尻尾に齧り付いている!
ま、マジかよ。魚は俺の尻尾を囓ることに一生懸命だ。逃げ出す気配もない。俺は、その齧り付いている魚を素手で掴む。
……。
さ、魚ゲットー。
って、俺の尻尾はそんなに美味そうだったのか。ま、まぁ、あまり痛くなくて――うん、被害がなくて良かった、う、うん。
とりあえず、この辺りで一度切り上げて浜辺に戻ろう。
泳いで浜辺に戻る。波が殆どないから流される心配もないし、これは良い狩り場かもしれない。魚、有りだね!
浜辺に戻り手で掴んでいた魚も草紋の槍に突き刺す。そして、その草紋の槍を石突を下にして地面に突き立てる。俺の馬鹿力を持ってすれば浜辺に棒を突き刺すくらい楽勝だぜ。
と、後は……。
森に戻り落ちている枝を拾い集める。こちらの森は木々がまばらだからか、落ち葉が少なく、落ちている枝も乾燥したものが見つかった。ちゃんと陽射しが差し込むって重要だなぁ。これが陽射しも入り込まないような深い森だと足場は腐った落ち葉ばかりで乾燥した枝を見つけるのも一苦労だっただろうからさ。
うん、ここは良いロケーションだ。
草紋の槍を突き立てた浜辺に戻り、拾った枝を井型に組み上げる。うん、良い感じ。
草紋の槍から魚を引き抜き、枝を突き刺し、草紋の槍で腹を切り裂き、そのまま内臓を取り出す。その取り出した内臓の変わりに昆布もどきを突っ込んでみる。うん、草紋の槍、便利だな。高かったけど買ってて良かったよ。魔法の武器だからか刃が欠けることもないし、便利だ。といっても壊れたことはあるからな、油断は出来ない。
もう一匹も同じように枝を突き刺し、草紋の槍で腹を切り裂いて内臓を取り出す。と、その内臓の中にキラリと光るものがあった。
よく見れば魔石だ。よく見なくても魔石だな。緑色に輝く米粒のような魔石だ。こんな海に生息している魚からでも魔石が出てくるのか。体内に石が作られる生物って不思議だよなぁ。まるで貝みたいだ。異世界らしいというか、何というか。
こちらは昆布もどきを巻き付ける。
さあて、準備は完了だ。
後は、と。
――[サモンヴァイン]――
――[サモンヴァイン]――
――[サモンヴァイン]――
草を生やす。その草を引っこ抜き、井型の中に突っ込む。
さあて、上手く出来るかな。
――[スパーク]――
積み上げた草の下で火花が散る。そして、火が点く。おー、上手く出来た、出来たぞー。
火は草を燃やし、枝を燃やして大きな炎へと変わっていく。
さあ、魚を焼こう。いやぁ、スパークの魔法を覚えたことで火打ち石的なものが不要になったな。便利、便利。
火打ち石といえば王都ではすっかり騙されたよな。いやまぁ、向こうは騙したつもりはないんだろうけどさ、使い方を知ったかぶっていただけだろう、多分。あの時は俺も王都の空気に飲まれていたというか、正常な思考が出来なくなっていたし、うん、今となって良い思い出だよ。
炎の近くに木の枝に刺した魚を並べる。さあ、焼けるのを待とう。
パチパチパチと火花が飛び散る小気味よい音が響く。うーん、静かで平和だ。魔人族の里からすぐ近くの浜辺なのに、誰かが来るような気配はない。魔人族にとって海は近寄りがたい場所なのだろうか。ま、それなら好都合だ。
魚が焼ける。
脂の滴る美味しそうな焼き魚だ。まずは昆布を巻いた方だ。囓る。だが、すぐには食べない。舌の上に魚の身を乗せ、我慢する。
……。
……。
しばらく待つ。
うん、体が痺れたり、気分が悪くなったりするこはないな。多分、食べても大丈夫だろう。部位によって毒のあるなしが分かれているようなら……もう、お手上げだな。
もしゃもしゃ。
もしゃもしゃ。
うーん、美味い。塩味が効いてるね! やはり風味があるって最高だよ。ただ、昆布を巻いたのは失敗だったかも。火力調整が出来ないうえに直火だからなぁ。せめてフライパンでもあれば違ったんだろうけどさ。ただ昆布もどきが焦げただけであまり意味が無かった。
魔人族の里にフライパンのようなもの、ないかなぁ。人の国ならあるんだろうけどさ。帰る手段が無いし、うーむ。
もう一つの魚も毒がないか確認してから食べてみる。
もしゃもしゃ。
もしゃもしゃ。
昆布を内に突っ込んでみたけど、う、うーん。微妙。昆布を使うならスープにした方が良さそうだ。となると鍋かぁ。さすがに鍋くらいは魔人族の里にあるよな? あるよな?
もしゃもしゃ。
ふぅ、美味しかった。魚は偉大だなぁ。焼いただけで美味しいんだからさ。魔獣の肉とかは何であまり味がしなかったんだろうな。やはり塩か? 塩の違いなんだろうか。
うーん。
ま、あと何回か魚を獲るかな。こうなってくると籠とか欲しいなぁ。
とりあえず、ここを拠点にして生活しよう。必要な道具類は魔人族の里で獲った魚と交換出来ないか探してみるか。うん、そうしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます