130 行こう

 空腹は少しだけ解消された。だが……、そう、だが、だ。味に不満はあるし、まだまだ食い足りない。まぁでもさ、ちょっとは元気が出たよ。これでもう少しは頑張れそうだ。


「さて、食事も終えたところで話に戻ろう、今回の……」

「あ、えーっと、その前にちょっと良いでしょうか」

 話を続けようとした魔人族の女性に割り込む。


「帝よ、どうしたのだ?」

「えーっと、何か着るものを貸して貰えないでしょうか?」

 お腹が膨れたことで思い出したことがある。今の自分の格好ってほぼ半裸なんだよな。革鎧も服も、全てが燃えてボロボロだからさ、さすがに何か着るものが欲しい。まぁ、でもさ、さっきの話を聞いた後だから、服をタダでくださいとは言わないさ。でも、貸してくださいくらいなら許されるだろう?


「ふむ。わざとそのような格好をしているのかと思ったのだが、違ったのだな」

 魔人族の女性が何処か呆れたような顔で俺を見ている。違います。というか、だね、好んで半裸で過ごすような人なんて居ないと思うんだ。


 ……。


 ま、まぁ、そういう趣味の人も居るだろうし、海水浴に来たとかなら普通か。


 でもさ、この里に来た時と今では格好が違うんだから、タイラントタイガーとの戦いの結果だと気付きそうなものだけどなぁ。


 ……。


 それだけ俺に興味がなかったってことか。悲しくなるな。


「ふむ。帝に何か最低限の服を」

 魔人族の女性の言葉で魔獣の皮で作られたと思われる服が運ばれてきた。皮の服かぁ。これ、多分、なめしてないよな。その皮の服を着てみる。


 ……。


 あー、うん。ゴワゴワしてるし、硬いし、しかも肌触りは最悪だ。


 何というか、最低限服のように見えるものって感じだな。


 何だかなぁ。


 結構、お金も貯めてさ、色々な装備品も買ってさ、強くなってきたと思ったのに振り出しに戻った感じだよ。草紋の槍があるだけ、まだマシだけどさ。


「えーっと、この借りは必ず返します」

「よい。この里で駆け出しのものに配っている程度のものだからな」

 配っている?


「えーっと、駆け出しですか」

「そうだ。はじめは誰もが駆け出しだ。この里では、保護期間を抜けた後、駆け出しの服、駆け出しの弓を持ち狩猟に出るのだよ。そして、獲物を狩り、食料を得て力をつけてゆく。狩りに余裕が出れば、手にした魔獣と交換で加工が得意なものに武具の強化を頼み、さらに力をつけてゆく」

 なるほどな。この肌を覆っているだけの酷い代物な服は初心者装備ってことか。子どもが狩りを覚えるために初めて手にするような代物、だからタダで良い、か。でもなぁ、だからこそ、タダは嫌なんだけどな。まぁ、今の俺に払えるものは何もないから生活に余裕が出来たら返すって感じだけどさ。うん、借りにはしておきたくないな。


 ……。


 さて、と。これで用件は終わりかな。


「では、話に戻るとしよう」


 ……。


 あー、そういえば何か話があるんだったな。もう満足した気分でいたよ。


「タイラントタイガーの件だ」

 集まっている他の魔人族が頷く。俺が倒したけど、それが問題だったんだろうか。いや、それはないか。

「森の中層の魔獣が降りてきた。最近、弱い魔獣が増えていた理由がそれであろう」

 あー、あのリスもどきが多かった理由ってそれか。タイラントタイガーから逃げていたのか。

「だが、こうも考えられぬか? タイラントタイガーも追われていた、と」


 ん?


「森の中域を支配し、我が物顔で暴れていた魔獣が里の近くまで降りてくるのはおかしいと思わぬか?」

 皆がはっとしたような顔になる。


「森の西側領域及び中層へ踏み込むことを禁ずる。警戒を怠るな」

 魔人族の女性の言葉を聞き皆が頷く。


「ああ、それと帝を里の狩人と認め、里の者と同じ扱いをするように」

「オオババ様、それは!」

「構わぬ。タイラントタイガーを倒す腕前だ。そこは認めても良いだろう」

「わ、分かりました」

「里の皆に伝えるのだ」

 何だろう、俺のことはかなりついで的な扱いだった!


 ちょっとショックだなぁ。頑張ってタイラントタイガーを倒したのにさ。まぁ、もっと頑張って見返してやるさ。


 これで集会は終わりのようだ。この場に集まっていた者たちだけで、こんなにあっさり里の方針を決めても良いのだろうか。うーん、まぁ、全員が顔なじみだろうってくらい小さな集落だものな。これで良いのだろう。


「わ、私は認めないから!」

 魔人族の少女はそんなツンデレみたいなことを言いながら走り去って行った。ツンデレ? デレはないからツンばかりで最悪だな。まぁ、でも、これでやっと邪魔されることなく自由に狩りが出来るな。


 だが、今の俺が戦うのに敵してそうな西側の森は進入禁止になってしまった。そりゃあ、こっそり入る分には良いだろうけどさ。さすがに、まだ、そんな敵対行動みたいなことはしたくない。


 となると。


 俺の行き先は決まった。


 まだ昼過ぎだからな。日が暮れるまで時間がある。


 行こうぜ、海。


 ここは海に囲まれた小さな島だ。そう、海だ。


 海があるんだぜ。


 行ってみよう、海。


 魚介類に、そのほか、色々と美味しそうだ。


 うん、お腹いっぱい食べてくれる!

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