129 水浸し

 魔人族の里に着いたところで他の三人も姿を現す。やはりというか、あの魔人族の少女も一緒だ。そして、姿を現したことでその殆どが女性だと分かる。いや、殆ど? 全員だな。魔人族は女性が多い種族なのか? でも、プロキオンは男だったよな? 男装している女性ではないはずだ。はず……だよな?


 里に着いた後はぞろぞろと連れだって大きな建物へと向かう。建物? 建物か? 建物じゃあないよな! 木と木を組み合わせたものに葉っぱを乗せただけの物を建物って呼びたくないなぁ


 皆でその中に入り、円を組むように座る。直接地面に座る文化ってどうかと思います。いや、それよりも大事なことがある。


 お腹が空いた。


「まずは今回の件についてだ」

 一番偉そうな魔人族の女性が、そう話を切り出す。いや、それよりも俺はお腹が空いたんだよ。何も食べてないからさ。


 いや、そもそも、だ。流れでそのまま着いていったけどさ、ここに俺が居る必要はあるか?

 ないよな。


 俺は、まず、ご飯を食べたいんだよ!


「皆にも周知して欲しいのだが……」

 と、そこでぐぅっと何かの音が鳴る。


 お、俺じゃないぞ。


 お腹が鳴ったのは例の魔人族の少女だった。魔人族の少女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。


「一度、ここで食事にした方が良いようだ。食事を!」

 魔人族の女性の言葉に集まっていた中の一人が立ち上がる。

「お、オオババ様、私は、私が狩った魔獣があります」

 魔人族の少女の言葉を聞いたオオババ様と呼ばれた魔人族の女性が首を横に振る。

「不要だ。今回は私が皆に振る舞おう」


 おー、食事だ。


 何だか良く分からないが食事が出てくる流れになったようだ。これは魔人族の少女、グッジョブだな。小憎たらしい少女だと思っていたが、これに関してだけは良いことをしたぞ!


「帝よ、少しよろしいか。食事が来るまでの間の雑談だ」

 魔人族の女性が俺に話しかけてくる。

「えーっと、はい、何でしょう」

 食事を振る舞ってくれる人だからな。ちゃんと話を聞くんだぜ。

「いや、この里のルールについてだ。帝は外より来た者ゆえ、この里のルールを知らぬと思ってな」

「えーっと、はい。それは確かに知りません」

「簡単なことだ。食べ物など全てのものは自分で手に入れる、ということだ。それは帝でも変わらぬ」

 今回は食事を振る舞うが、それは特別だって言いたいのかな。

「えーっと、分かりました」

 まぁ、別に自分も誰かに施されるのが当たり前だとは思っていない。働くもの喰うべからず、だな。


 でも、少しだけ疑問が残る。


「うむ」

 魔人族の女性は満足したような笑顔で頷いている。


「えーっと、それは分かりました。でも、誰も彼もが狩りにいけるワケじゃあないですよね。そこはどうなっているんですか?」

 それとも魔人族は全員が狩猟者な、狩猟民族だとでも言うのだろうか。そういえば、このオオババ様って呼ばれている魔人族の女性も、そんな婆様と呼ばれるような年齢には見えない。もしかして年を取らないファンタジーな種族なのか。角が生えてるしなぁ。常に全盛期! みたいなこともあり得るのか。


 うーむ。


「ふむ。それに関しては、そうだな……何か作業を手伝う、何か交換するなど、他のことで補い合うのだ」


 ……。


 物々交換!


 あー、普通だ。


 そりゃあ、そうだよなぁ。ただ貨幣がないだけで普通のことじゃあないか。そんな普通のことも分からないと思われていたのか。


 というか、だ。


 硬貨があった分、人の国の方が文明レベルが上だよなぁ。魔人族もさ、人と敵対している割りには相手のことを知らないというか、生活レベルが原始人過ぎる。


 ……。


 まぁ、もともと一人で頑張るつもりだったし、物々交換もオッケーなら少しは楽になるか。


 この魔人族の里にどれだけの間居ることになるのか分からないけど、まぁ、とりあえずは自分の力を高めるための期間だと思うかな。幸いにも、この体はとても若いからガンガン色々飲み込んでどんどん成長出来るだろう。


 うん、修行期間だな。


 もしかするとプロキオンもそのつもりで俺をここに連れてきたのかなぁ。置き去りにされているしさ。何だか上手く乗せられているような気がするなぁ。


 そんなことを考えているうちに料理が運ばれてくる。料理?


 木の実と肉が浮いた水? いや、スープなのか。

 いやいやいや。


 これはちょっと酷くないか。


 俺はこれをスープだと思いたくないし、料理だと認めたくない。


 焼いただけの肉串を見た時も思ったけど、もしかして、料理が存在しないのか。


 ……。


 と、とりあえず食べてみよう。味は良いかもしれない。うん、せっかくのご飯だ。ありがたくいただこう。


 もしゃもしゃ。


 ごくごく。


 ……。


「えーっと、これがご飯ですか」

「ああ。今回は私の振る舞いだ。遠慮無く食べるといい」

 ああ、間違っていなかったようだ。これが食事だったようだ!


「えーっと、普段からこんな感じのご飯ですか?」

「普段? そうだ。食事などは腹に入れば同じだからな。私などはこのように、お腹に入りやすい形を好むのだよ」

 あー、スープ風に水に浸けてあるのはそのためかー。


 てっきり出汁を取るためかと思ったら水だもんなぁ。焼いた肉と果物を水に浸けただけだったからびっくりしたけど、そういう理由だったのかー。


 って、水に浸けただけとか、酷い、酷すぎる。


 魔人族は味覚とかがない種族なのだろうか。


 先行きが不安になるなぁ。

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