127 愚か者

 まさか、このタブレットに表示されているのは秒数だとでも言うのか。


 嘘だろ。


 冗談だろう。


 貴重なBPを消費して手に入れたのが今何秒か分かるだけの力だっていうのか?


 ……。


 表示されている数値が増え、『59』になったところで『00』に変わった。おいおい、本当に秒じゃん。


 これで正確に、秒単位で時間が測れるな!


 ……。


 あー、えーっと、この世界でも一分が六十秒間隔だと分かったのが収穫か、な? それとも俺の記憶に――元の世界の知識に影響を受けて表示されている? その可能性もあるか。


 まぁ、とにかく分かったことは俺はBPを無駄にしてしまったということだ。


 はぁ。


 何だよ、それ。


 貴重なBPだからって色々と考えていた自分が馬鹿みたいじゃあないか。


 ……。


 まぁ、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。苛々するだけだ。前向きに考えよう。BPならまた手に入れることは出来る。またレベルを上げれば良いんだ。レベルの上昇がここで打ち止めになることはないだろうしさ。


 って、打ち止め?


 ……無いよな?


 レベル『32』の魔獣が存在したんだ。俺のレベルが『14』で打ち止めにはならない――はずだ。

 いや、でもレベルのかけ離れた強敵を倒したのに『1』しか上がらなかったんだぞ。俺の種族の上限が『14』だという可能性もある。


 あ、あり得る。


 ……あー、考えれば考えるだけ後悔しかない。負の悪循環だ。


 ……。


 ん?


 と、そこで何かの気配を感じる。頭の上の耳がピクピクと動く。俺に気付かれないように――というワケでもないか。魔獣避けかな? 気配を消して隠れるように動いているな。


 一人? いや違う。良く分かる一人の周囲に二人、三人……か? いや、五人かな? その五人の中のうちの一人が随分と気配を隠すのが下手なようだ。その下手くそさんのおかげで集団が近づいてくることに気付けたよ。


 ……。


 里の魔人族かな。


 となると、気配を消すのが下手くそなのは、あの魔人族の少女だろうか。その魔人族の少女が案内役ってところかな。まぁ、子どもだからな、他に比べて技量が落ちても仕方ない。


 しかしアレだな。随分と遅かったな。


 俺は近寄ってきた気配に手を振る。

「おーい、ここだ。えーっと、ここです」


 何かの気配が俺の前に落ちる。気配はこの一つだけだ。他の四人は離れて様子をうかがっているようだ。

「騒ぐな。タイラントタイガーは何処だ」

 その気配がキョロキョロと周囲を見回している。気配だけで姿が見えない。


 にしても、騒ぐな、か。はぁ、何だろうなぁ。俺は一応、魔人族にとっての象徴みたいな立場なんだよな? もう少しさ、敬意を持って接して欲しいと思うんだけどなぁ。別にさ、頭を地面にこすりつけろとか言っているワケじゃあないんだぜ。もう少しだけ普通に接しろって言ってるんだよ。


「えーっと、そのタイラントタイガーなら自分が! 倒しましたよ」

「馬鹿を言うな。早く言え」

 馬鹿って何だよ、馬鹿って。姿も見せず、声だけでさ、馬鹿にしたように喋りやがって!


 何だろうな、魔人族が人に対して敵意を持っているのは知ってるけどさ。これは、ちょっと酷い態度じゃあないか。俺は違うって分かって貰えていないのか? プロキオンが説明したはずなんだが、信じられてないようだ。プロキオンの人望の無さが良く分かるな。まぁ、暴力で解決しちゃうような性格をしていたから仕方ないのかなぁ。


「えーっと、そこにあるのが、そのタイラントタイガーの残骸ですよ」

「見えぬが」


 ……。


 あ。


 消し炭になっているんだった。いやいや、でも虎の形の消し炭だったじゃん。


 ……。


 あ。


 俺が触ったから形が崩れている。マジかよ。


 って、ん?


 俺はそこで消し炭の中にキラリと光る何かを見つける。


 もしかして……魔石か?


 消し炭を掻き分ける。


 ああ、そうだ。間違いない。魔石だ。黄色に赤の縞々が入った魔石だ。本体は消し炭になったのに魔石は残るなんて――まったく、何なのだろうな、この石は。


 俺は魔石を取り上げ、気配のする方へ突きつける。

「えーっと、これが証拠です。タイラントタイガーの魔石です。これでも疑いますか?」

 隠れた気配がたじろいでいる気配を感じる。気配の気配を感じる!

「た、確かに。しかし……いや、それよりも」

「えーっと、それよりも何ですか?」

 俺は気配の方へ話しかける。魔人語で会話していることに驚かれているのか? まさか、今更?


 ん?


 気配が動く。


 俺を回り込むように気配が動く。俺はその気配を追う。


「何故、気付く」

 気配が喋る。

「えーっと、気配があるからですよ」

「あり得ぬ」

「いやいや、えーっと、あり得てますよね。向こうに四つ気配があるのも分かってますよ」

「な!」

 気配が驚き叫ぶ。


「どうした!?」

 その叫び声に反応したのか、残りの四つの気配もこちらへと近寄ってくる。


 ……。


 はぁ。



「やれやれ。こちらがタイラントタイガーを倒したことも信じない、気配は丸わかり。修業が足りないんじゃあないですかね」

 俺は肩を竦める。


 コイツらは俺に対して舐めた態度を取ってくれているからね。これくらいの皮肉は許されるだろう。

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