126 秒速は
転がり大の字になって寝転がる。落ち葉の絨毯が気持ち悪い。腐ったような土の匂いもあまり気持ちの良いものじゃない。正直、不快だ。
だが、心地よい。
勝利に心が躍る。だってさ、普通は勝てないような相手だったじゃあないか。どれだけ死を覚悟したか。最初は、何とかなるだろうとかなり舐めていたしな。それが、あの大苦戦だ。そうだよ、最初はさ、草魔法が使えれば何とかなるだろうと思っていたんだよな。それが効かないんだから、苦労したよなぁ。
……。
って、いやいや、頼りにしているのが草魔法かよ! 俺、いつの間にか草魔法をアテにしていたんだな。ゴミみたいな魔法と言いながら、あれば何とかなるだろうって頼りにしているって、はは、ははは。それしか手札がなかったって言えばそれまでだけどさ。多分、この世界には、この草魔法よりも余程使えるだろうって魔法が沢山あるだろうな。プロキオンが使っている空間魔法だって、重さがそのままだっていうデメリットを考えても便利そうだったからなぁ。そのプロキオンが使った、反抗的な魔人族の腕を切断したのも魔法だろうし、うん、草魔法はたいしたことがないな。
それでも、それに頼るしかないくらい俺の手札が酷いんだけどさ。
だから、頼るのも仕方ないか。
……。
はぁ、応援遅いな。
もしかして、このまま応援が来ないって可能性もあるか。あの魔人族の少女の性格を考えたらあり得そうだな。
少し元気になったら自力で戻ることを考えるべきか。
……。
いや、無理に戻る必要もないのか? そうだよなぁ。魔人族の里の人たちは俺に対してあまり友好的じゃあない。このまま帰ってもなぁ。でも、ここは海に囲まれた島だから、他に行ける場所も無いし、一人でサバイバルをするには、この森は危険過ぎる。
はぁ、仕方ないな。
俺は改めて虎の死骸を見る。死骸というか燃えかすだな。黒く燃え尽きた滓が虎の形で残っている。
疲れた体を持ち上げ、ゆっくりと虎の残骸に近寄る。ちょっと手で触れてだけでさらさらと形が崩れる。恐ろしい火力だ。いくら炎に耐性がないっていっても、普通はこんな風になるか? コレを喰らって耐えることが出来たんだから、火耐性の力は凄いな。こんな力が数値をいじるだけで、ポンッと手に入るって……。
改めてタブレットを見る。
便利すぎる。確かにBPを手に入れなければ力は手に入らない。それにいくら簡単に力が手に入るといっても、上げるための項目が表示されていなければ駄目だから、そこはデメリットか。でもさ、そのデメリットを考えても便利すぎる。
って、タブレット!
そうだ。せっかく強い魔獣を倒したんだ、レベルが上がっているよな? 上がっているはずだ。上がっていないとおかしい。だって『32』だぜ。倒した虎のレベルは『32』だった。今の自分のレベルが『13』だから二十後半くらいまで一気に上がっていてもおかしくない。一気に数レベル上がったこともあるから、一度に上がるレベルは一と決まっているワケじゃあない。これは期待出来るッ!
タブレットの画面を見る。
レベルは……っと。
ん?
あれ?
レベル『14』だとッ!?
いや、確かに上がっている。上がっているけどさ。
『1』だけ、だと!?
おかしい。おかしくないか? 一気に数レベル上がることはあった。だから、上がってもおかしくないはずだ。おかしくなかったよな?
なのに何故だ。
『1』しか上がっていない理由があるはずだ。
何だろうなぁ。何かあるはずだよな。
いや、まずはこのレベルアップで手に入れた貴重なBPをどうするか、か? もう、以前のような振り分けることへの忌避感はない。
……。
殆ど、ない。
生き延びることが優先だからな。力は手に入れる。それが、どれだけ怪しい力だったとしても、だ。
でも、だ。せっかく手に入ったBPをすぐに使っても大丈夫かどうか、だよなぁ。今回はたまたま戦闘中にレベルが上がっていて何とかなった。でも、だ。同じような状況になった時、次もレベルが上がっているから大丈夫、なんてお気楽には考えられない。
貴重だ。
あー、この虎の魔獣を倒して数レベル上がって、それで沢山BPが手に入って、少しくらいなら振り分けに余裕があるみたいに考えていたのになぁ。甘かった。
取っておくのも一つの手だ。
だが。
そう、だが、だ。
少しでも早く強くなるために、手に入れた力はすぐに使っておくべきだろう。
火耐性は便利だった。このまま火耐性をもう一レベル上げるのもアリだ。そうすれば、虎と同じ火を操る魔獣が現れても、次は倒すのに苦労しないだろう。
槍技を上げるのも悪くない。もしかしたら、もっと使える技が表示されるかもしれない。あー、でも、その表示された技を習得するには、BPが足りないのか。となると、今、振り分けるのは良くないな。
せめて、BPが『2』増えていたらなぁ。もう少し選択肢が増えたんだが。
……。
魔法に振ってみるか。
何か一発逆転の強化がされるかもしれない。
となると、タイムの魔法か。わざわざ神域にあるような、しかも普通の人には見えない隠された魔石で習得出来た魔法だ。何か秘められた力があるはずだ。
時魔法自体に振り分けて次の魔法が何かを確認するのも手だけど、それだとどんな魔法が習得出来るか見ることしか出来ないからな。
だから、タイムに振ってみる。
一番あり得ない選択かもしれない、だけど、一発逆転の可能性だってある。
あー、ギャラリーが居たら、やめろ馬鹿って声が聞こえそうだ。でもさ、ここには、この世界には攻略法なんてないんだぜ。ネットで先人の知恵を借りることも出来ない。俺だって、効率よくBPを振りたいさ。でも、手探りで探っていくしかない。だったら、こういう一か八かも必要だ。
失敗に思える選択が正解ってこともあるしさ。ゴミスキルだと思われていたものが実は使えた、なんていうのはよくある話だ。
だから、俺は振ってみる。
タイムに振ってみる。
……。
……。
……。
何も起こらないな。
タブレットを見る。
表示されている時刻は『13:12』だ。
あー、もうこんな時間か。
って、何も変わっていないだとッ!
……。
あ、そうか。
魔法を唱えなおさないと駄目なのか。
――[タイム]――
魔法が発動する。
タブレットが青く光る。俺はタブレットを見る。
そこには『13:12 56』と表示されていた。
え?
あれ?
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