122 魔力線

 魔獣を探して森の中を歩く。


「止まって」

 すると魔人族の少女が俺に声をかけてきた。

「えーっと、何?」

「これ以上先は危険」

 俺は足を止める。


 そして、先を――森の闇を見る。


 ……足を止めた? 違う、足が止まる。


 空気が違う。重い。確かにここから先は危険なようだ。空飛ぶ竜もどき――ワイバーン種が住むような場所だからな。かなり危険なのだろう。


 ……。


 今日は止めておこう。今日はここより先に進むのは止めておこう。


 魔人族の少女の方へと振り返る。何処かホッとしたような顔をしている。


 だが、だ。それはあくまでも今日は、だ。明日にでも行ってみよう。これでも数々の魔獣を駆逐した経験があるからな。この程度の嫌な空気、俺が戦った経験からすればたいしたこと無いな。うん、たいしたことない。


 さて、と。


 まずは、だ。今日は、この魔人族の少女の弓と矢の種を明かそうじゃあないか。


 魔獣を探す。


 するとすぐにリスもどきが見つかった。ここ、コイツらばかりだな。

「えーっと、なぁ、あそこに魔獣居るよな。この魔獣しか見かけないけど、ここはコイツらしか居ないのか?」

「そうでもない。でも今日は多い」

 お? 予想外にも普通に答えてくれた。てっきり無視されるか馬鹿にされるかのどちらかかと思ったのに。


 まぁ、いいさ。


 さて、どうしよう。


 ……。


 って、どうしようもないか。リスもどきの魔獣を狙うため草紋の槍を持ち近寄っていく。もちろん、背後の魔人族の少女に注意を払いながら、だ。


 草紋の槍を構える。


 そこで背後を盗み見る。


 魔人族の少女が弓に木の棒を番えている。早い。手慣れた――というか、まるで体の一部になっているかのように流れる動作だ。


 そして、見えた。


 何かの力のようなものが木の棒に集まっている。その力のラインがリスもどきの魔獣へと伸びる。線が作られる。


 そして、放たれる矢。


 木の棒は矢となり力の線をなぞるように飛び、リスもどきの魔獣を貫通する。


 ……力?


 魔力か?


 もしかして魔法の矢なのか。これが種、か。


 もう一度、見たいな。見て確認したい。相手の魔力の流れを注視する、か。なるほど、気付かなかった。これは良い魔力を見る訓練になるな。


「どう?」

 魔人族の少女はリスもどきの魔獣を持ち上げ、得意気な顔で俺を見ている。はいはい、悔しい、悔しい。


 次の魔獣を探そう。


 森を歩いているとすぐに次のリスもどきが見つかった。ホント、多いな。この森ってコイツしか居ないんじゃあないか。


 と、そうだ。せっかくだから鑑定するか。


 木の枝の上にいるリスもどきにタブレットをかざしながら近寄る。動くなよ。鑑定の枠から外れたら、また一から鑑定を始めることになるからな。


 リスもどきはこちらに気付いていないのか、キョロキョロと周囲を見回している。その場から動かない。ホント、間抜けな魔獣だな。

 そして、鑑定結果が出る。



 マルイロス

 レベル:8

 深域の森に住む凶暴なロス種の魔獣。鋭い牙を持つ。


 ……。


 い、意外にもレベルの高い魔獣だった。こんな矢の一撃で死ぬような弱っちい魔獣が、かつて俺が戦った狼と同じレベルかよ。もしかして、レベルって別に強さとかの指標ではないのか? じゃあ、レベルは何なんだって話になるよな。うーん。

 ロス種というのがリスのことなのかな。似てるし、多分、そうだろう。これも俺がリスって認識した瞬間に表示が変わるのだろうか。ウサギの時がそうだったしなぁ。


 ま、まぁ、とにかく、だ。


 今は魔人族の少女だ。


 マルイロスという名前のリスもどきに近寄る。その瞬間――俺は見る。先ほどと同じように魔力の線が放たれた。リスもどきと魔人族の少女の弓が一本の線で繋がっている。

 そして放たれる魔力を纏った木の棒。


 リスもどきが魔力に貫かれて死ぬ。やはり一撃だ。


 なるほど。魔力の線で繋いでロックオンしているから必ず命中するのか。しかも早い。この速度に負けないためにはどうするか、だな。威力が高いのも魔法だからなのだろうか。そういえば魔人族は魔法に長けた種族だったか。だったよな? 確か、そんなようなことをプロキオンが言っていたような気がする。だからこその芸当か。


 さあて、どうしよう。


 魔力を纏って矢のように飛ぶ木の棒に草でも生やすか? 多分、無駄だろうな。


 じゃあ、どうするか。


「持ちきれないほど狩った。誰かと違う」

 魔人族の少女はリスもどきの死骸を持って得意気だ。ホント、ムカつく態度だなぁ。それで俺が餓死したらどうするんだよ。

「どうしてもとお願いするなら分けてやる」

 あ、はい。そういう感じね。自分の方が上だと力を見せつけたかったって感じか。これ、でもさ、俺が頭を下げたら負けだよな。今後の力関係が決まってしまう。


 俺は魔人族の少女を無視して次の獲物を探す。


 ……。


 ……。


 ……居た!


 木の枝の上にリスもどきだ。


 ホント、すぐに見つかるな。


「お前が何かやるよりも私の方が早い」

 そんなことを言っている魔人族の少女を無視して俺は駆ける。


 ……。


 来たッ!


 すぐに魔力の線が繋がる。早いな、早い。俺が魔獣に辿り着くよりも早く倒すつもりだものな。そりゃあ早くなるよな。


 だが、俺はタイミングを見るのが、合わせるのが得意なんだよッ!


 指を鳴らす。これはプロキオンの真似だ。単純に、その方がこの魔人族の少女が悔しがると思っての行動。


 それに合わせて――


――[サモンヴァイン]――


 草を生やす。


 草を生やすのは、狙いは――魔力の線ッ!


 魔力と発動する魔力の衝突。繋がっていた魔力の線が俺の草魔法の発動によって途切れる。出来るかもと思ったが予想通り出来たッ!


 木の棒の方ではなくロックオンラインの方に草を生やし、それを途切れさせる。


 そして、放たれた矢が、魔力の線が途切れた場所で、ただの木の棒へと戻り、落ちる。

「え!?」

 少女の驚きの声。


 正直、ザマァ、だ。


 俺はそのまま草紋の槍を握り駆ける。


 今度こそ狩ってやるぜ。


――《二段突き》――


 槍が二つに見えるほどの連続突きがリスもどきを貫く。よし、当たったッ!


 俺の勝ちだッ!

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