120 狩って
とりあえず狩猟か。
ご飯、だな。食べられる魔獣を倒して肉を得る。それしかない。まぁ、捌くのは未だに苦手だけどさ。だって、肉だぜ、肉。生肉だ。
お腹を膨らませるだけなら食べられる果物を探した方が早いかもしれない。幸いにも神域で食べても大丈夫な果物をプロキオンに見せて貰っているからな。時間はかかるがタブレットを使って鑑定するって手段もあるしな。
だが、だ。
俺は魔人族の少女を見る。持っているのは弓だ。狩猟がメインってことだよな。そんな狩猟がメインの集落で果物を採取して空腹をしのぐってのは馬鹿にされるかもしれないよな。
今でも低く見られているのに、さらになめられそうだよなぁ。
まぁ、アレだ。
プロキオンに無理矢理連れてこられた場所だ。無理にここの連中と仲良くする必要はないんだけどさ。でも、まぁ、出来るなら仲良くした方が良いだろう。それでも無理だってなれば、投げ出せば良い。すぐに『不快だから死ね』みたいな短気を起こす必要はないよな。俺は別に魔王でも邪神でも悪魔でもないんだしさ。
あー、でも一応、神帝、か。この世界の神がどんな扱いか分からないが、神って名の付く称号とクラスだな、うん。
だから、まぁ、少しは認められる行動をしよう。打ち解けられるように俺の方から努力してみよう。プロキオンが力で押さえただけってのは、後の反発が怖いしな。
だから、魔獣を狩ってみよう。それに、魔獣を倒せばレベルが上がるかもしれない。レベルが上がればBPが手に入る。それで魔法のレベルを上げてみるのも良いな。
……。
BPの振り分け、か。何だろうなぁ、時魔法を手に入れてからBPを振り分けることへの忌避感が減った気がする。振り分けても、この程度か、みたいな。そりゃまぁ、激痛に転げ回ることもあって、そういうのはゴメンだけどさ。そういうことばかりじゃないしな。もしかしたら、何か使える力が手に入るかもしれないしさ。
という訳で狩猟だな。
「えーっと、森に入って魔獣を狩れば良いのかな?」
「当然」
魔人族の少女が俺を馬鹿にしたような調子で答えてくれる。当然なのか。やはり、というか、何というか、この魔人族の少女は俺をなめている感じだよなぁ。コレは、アレか、俺が丁寧な感じの言葉で喋っているのが悪いのか。子ども相手に丁寧な言葉はなめられるだけか。
いや、でも、突然、いきったような話し方に変えるのも感じ悪いじゃあないか。だから、まぁ、とりあえずは、このままだな。
ざっざっと歩き、森に入る。
うん、森だ。すこーし薄暗いか。
気味の悪い虫は飛んでいるし、木の陰から蛇でも飛びかかってきそうなうっそうとした森だ。
森だなぁ。
草や蔦を掻き分け、しばらく歩いていると木の枝の上にリスのような生き物を見つけた。リスよりは一回りくらい大きいか? こちらに気付いていないのかキョロキョロと周囲を見回しながらのんびりしている。
「えーっとアレは魔獣?」
「魔獣。見て分からないの? この辺りは私たちを恐れて馬鹿で弱い魔獣しか住んでない」
さいですか。恐れる、というのと弱い魔獣しかいないというのが何故イコールになるのか分からないが、とにかく、この周辺には弱い魔獣しかいないってことのようだ。
まぁ、とにかく、だ。あのリスもどきが魔獣なのは間違いないようだ。とりあえず狩って食料にするか。どんな名前の魔獣なのか鑑定してみたいところだが、まぁ、今は狩る方が優先だな。
草紋の槍を持ち、リスもどきに近づく。そろり、そろりと気配を消して音を立てず近寄りたいところだが、周囲には草が多く、どうしてもガサガサと音がしてしまう。だが、それでもリスもどきは逃げようとしない。
何というか、本当に馬鹿な魔獣なのだろう。いや、そういう危機感が足りていない魔獣だから、里の周辺まで来ているのかもしれないな。あー、この魔人族の少女が言いたかったのは、それか。
とりあえず狩ろう。
草紋の槍を構える。
そして、槍を――
へ?
俺が草紋の槍でリスもどきを貫くよりも早く、そのリスもどきに矢が刺さる。頭から首筋まで貫通する一撃――リスもどきがピクピクと痙攣し、動かなくなった。リスもどきはその一撃だけで死んだようだ。
俺は慌てて振り返る。そこには弓を構えた魔人族の少女が立っていた。
「私の獲物」
魔人族の少女は得意気だ。
へ?
あ?
いやいや、いやいや。どう考えても、ここは俺が狩る流れだっただろう。なんでこの子が狩ってるんだよ。
魔人族の少女はリスもどきの耳を持ち紐で縛り上げている。
「私の獲物だからあげない」
……。
こ、子どものやることだから、な。
あ、ああ、そうだ。
大人の俺は怒らない。キレないぞ。
ま、まだ獲物はいるはずだ。
次の獲物を探し森を歩く。
そして、見つける。
居た。さっきと同じリスもどきだ。
よ、よし、今度こそ。
俺はゆっくりと近づく。
だが、そのリスもどきに矢が刺さる。
「獲物!」
魔人族の少女が楽しそうな顔で狩猟したリスもどきの元へ歩いている。鼻歌でも歌いそうな軽やかなステップだ。
……。
「お、おい!」
思わず叫んでしまう。だけど、これは仕方ないだろう。
「何?」
魔人族の少女が振り返る。
「それはないだろう」
「何が? 私も狩りをしている。私の獲物」
喧嘩を売ってるのか。
売ってるんだよな。
あったま来た。
子どもだと思って大目に見ようかと思ったが、もう許さないぞ。
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