119 狩猟と

 ジャリジャリとした感覚と肌寒さに目が覚める。皮膚がパリパリしてちょっと痛い。


 って、ん、はっ!?


 慌ててタブレットを見る。表示されている時刻は『06:40』だ。えーっと、この島に到着したのが朝で、そこから皆を集めて、それなりに認められて……認められたか? と、とにかく、その後、焼いた串を食べて、いや、違う、食べたのは肉で、味のない焼いただけの肉で、そのまま寝て……眠っていたはずだ。


 肉の味が無かったのはどうしてなんだろうなぁ。塩味が足りないのは分かった。だけどさ、ステーキ店で食べたことがある肉は焼いただけだったが美味しかった。焼き方なのだろうか。それとも肉の種類? 種類だったら改善出来ないなぁ。でも、臭みがあった訳じゃないし……うん、塩をふれば誤魔化せるはずだ。


 となると塩が欲しいなぁ。海があるんだから塩は取れるんじゃあないか? よし、そうだな。その方向で行こう。


 って、そうじゃない、そうじゃない。


 時間だ。今、考えていたのは肉のことじゃなくて時間のことだったはずだ。はずだよな?


 そうだよ。朝六時ってことは、朝だってことだよな? 眠ったのが昼前で起きたのが朝ってことは丸一日近く眠っていたってことになる。そりゃあ皮膚がパリパリで痛くもなるはずだ。


 丸一日、か。それだけ疲れていたってことかなぁ。


 ……。


 はぁ、一日、か。いや、気分を変えよう。


 さあ、新しい一日だ。やれることからやろう。やってみよう!


 俺は大きく伸びをして起き上がる。そのまま硬くなっていた体を揉みほぐす。ベッドが欲しいな、ベッドが。この島には木材と葉っぱがあるから上手くすればベッドくらいは作れるはずだ。それも作る候補だな。


 塩もベッドもまともな家も。うん、必要なものばかりだ。


「やっと目が覚めた」

 俺がそんなことを考えていると背後から声がかかった。俺はすぐに振り返る。


 そこに立っていたのは魔人族の少女だった。俺と同い年くらいか? 確か、俺とプロキオンがこの島に降りたった時に走ってきた少女だよな。


「あ、えーっと……」

「叔父様からお前を任された。なんで叔父様は、こんなのを……」

 魔人族の少女は大きなため息を吐き出している。


 う、うん?


「いや、えーっと、言葉が分かるんですけど」

「そう」

 魔人族の少女の態度はかなり悪い。俺が魔人族の言葉が分からなくても伝わるよう自分が不満を持っていると全身でアピールしている。うん、俺に対して敵意を持っているようにしか見えない。


「えーっと、プロキオンは?」

「叔父様を呼び捨てにするな。名前で呼ぶな!」


 ……。


 う、うーん。


「プロキオンは?」

 少しだけ言葉に力を込めて聞く。

「叔父様はお前が起きるのを待っていたが、目を覚まさないようなので仕事に行った」

 魔人族の少女は俺と顔を合わさないようにプイッと横を向いている。


 はぁ、何、この子。


 いきなり敵意剥き出し、か。


 この子はプロキオンに懐いているんだろうな。で、その大好きなプロキオン叔父様の連れてきた俺が気にくわない、って感じか。


 その大好きな叔父様とやらから俺の世話をするように頼まれているだろうに、その意味が分からないのか。大丈夫なのか? いくら面白くなくても頼まれごとをやらない方が嫌われるって分からないのかなぁ。


 その辺は見た目通り子どもだってことか。


「えーっと、プロキオンは何か言っていましたか?」

「ふん。知らない。何も言ってない」

 プロキオンは見た目が同じくらいの年齢で性別も同じってことで、この子に俺の世話を任せようとしたのかなぁ。だが、この子の態度を見る限り、正直、それは失敗だったとしか言えないよなぁ。


「えーっと、正直にお願い。あなたの大好きな叔父様に嫌われるよ」

「な! お前たちと一緒にするな。私たちは嘘を吐かない」

 嘘を吐かない、か。でもさ、それが嘘だよなぁ。魔人族だって嘘を言うはずだ。


 まぁ、アレだ。


 この子は純粋に子どもなんだろうな。この少女の態度はムカつくから殺す……と、までは思わないけどさ、単純に子どもの相手は面倒で厄介だなって思うよ。


 はぁ、どうしたものやら。


 ……。


 まぁ、それは良いとして、だ。


 とりあえず、だ。

「あ、えーっと、それで、お腹が空いたんで何か食べ物でもありますか?」

 魔人族の少女が馬鹿にしたような目で俺を見る。

「獲物は自分で獲る。出来ないのは子どもだけ!」

 なるほどなるほど。


 この魔人族の少女は、自分で獲物を狩っているから一人前、だと。そして、自分で獲ろうとせず食事を分けて貰おうとしている俺は情けない子どもだと言いたいんだな。


 なるほどなー。


 そういえば肩から弓を提げているもんな。


 そうか、そうか。


 丸一日眠っていて空腹だが、体力は戻っている。体は動く。


 俺は草紋の槍を握る。


「えーっと、魔獣を狩ってくれば良いんだよな?」

「むぅ。そうだけど、そうだけど!」

「えーっと、そういうことで行ってきます」

「あ! 駄目! 待って、待って」

 魔人族の少女が慌てて俺を引き留める。

「私も一緒に行く」


 ……。


 もしかするとプロキオンから頼まれていた役目を思い出したのかもしれないな。


 何だかなぁ。

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