116 隠れ里
隠れ里に降り立つ。場所は隠れ里の中でも何も無い外れに位置する場所だ。この鳥の羽ばたきが生み出す風はかなり強いものだからな。あえて里の外れに降りたのかもしれない。
もちろん出迎えなんてない。そりゃあ、里の外れだものな。仕方ない、仕方ない。
と、思っていたが、どうもそれは間違っていたようだ。
何かがこちらを目掛けて走ってくる。何か? それは少女だった。魔人族の少女だ。長く伸びた黒い髪の間から小さな山羊のような角を生やし動物の革で作った民族衣装のようなものを着込んだ少女。年は獣耳少女になった自分と同じか、それより少し上くらいだろうか。
肩からは弓を下げている。腰には矢筒が見えるな。う、うーん、ホント、何だろう。何処かの狩猟民族って感じだなぁ。
「叔父様、お帰りなさい!」
魔人族の少女が笑顔でこちらへと話しかける。いや、話しかけているのはプロキオンに対して、か。
だが、その少女の目がゆっくりと細められる。
「叔父様、それは?」
それとは何でしょうか。って、分かってるよ。俺のことだよな。でも、それ扱いって酷くないか。
「サイフ、話は後です。皆を集めるのですよ」
プロキオンがサイフと呼んだ少女に指示を出す。だが、少女は動こうとしない。俺の方を睨むような目で見たままだ。
「私を怒らせる前に早くするのですよ」
プロキオンの静かな威圧に少女はビクンと震え、慌ててすぐに駆け出す。うんうん、プロキオンはしっかりと恐れられているようだ。俺が苦戦した相手が子どもになめられているような雑魚扱いだったらどうしようかと思ったよ。
良かった、良かった。
俺は改めて周囲を見回す。
……。
隠れ里という呼び方をしていたが、里と呼ぶのもおこがましいレベルだ。木をくみ上げた上に葉っぱをのせただけの家らしきものとか木と木を組み合わせただけの柵のようなものとか、う、うーん。
俺は巨大な鳥をなだめているプロキオンの方を見る。プロキオンはちょっと高そうなフード付のローブを着ている。ここの文明レベルとはかけ離れた服装だ。それともローブの下は先ほどの少女と同じような狩猟民族的な革装備なのだろうか。
う、うーん。
プロキオンと戦った時、山賊たちは鉄の装備をしていた。ってことは、鉄を加工する技術があるってことだよな? なのに、原始人のような生活? この隠れ里に鉄製品があるようには見えない。
う、うーん。
俺はてっきり魔王城的な場所に案内されるのかと思っていたが、まさか、こんな原始の生活が行われている無人島に連れてこられるとは思わなかったよ!
思わなかったよ!
いや、そもそもだ。魔人族は四十人ほどだと言っていたよな? じゃあ、あの山賊たちは何なんだ? 魔人族の協力者か?
う、うーん。
俺がそんなことを考えていると、ぞろぞろと魔人族たちが現れた。男も女も子どもも――様々だ。いや、どちらかというと女の数が多い感じか。だが老人の姿がない。一番年齢の高そうな魔人族でも三十くらいだろうか。お姉さんと呼んであげないと怒らせてしまいそうな年齢の人たちばかりだな。
……。
魔人族の寿命ってどれくらいだ? もしかして若そうに見えても結構な年なのだろうか。
「これはどういうことだ。私たちの里にそのような混じりものを連れてくるとは! その意味が分かっているのか」
集まった魔人族の中から少し偉そうなお姉さんが話しかけてくる。あまり友好的ではないようだ。あまり? いや、かなり、だな。
俺はプロキオンの方を見る。プロキオンが頷き、口を開く。
「この方は帝ですよ」
集まった魔人族が騒がしくなる。ざわざわって感じだな。どうも信じられないって感じのことを話しているようだ。
「何を馬鹿なことを」
魔人族の集団から俺に向けられるのは敵意の視線。その視線から俺を守るようにプロキオンが前に出る。
「この方は塔を起動したのですよ」
プロキオンの言葉を聞いて再び騒がしくなる。
「馬鹿な。あり得ない。帝の血が混じりものに受け継がれたとでも言うのか。そのようなことはありはせぬ」
ありはせぬって。
「そのような小さな混じりものに帝を騙らせ、この里に連れてきてどうするつもりだ」
「何が帝か。知性も感じられぬような顔をしているではないか!」
「この里を知られたからには……」
う、うーん。
何だろうな、これは。
「えーっと、プロキオン、自分は必要とされていないようだから、帰っても良いかな」
「帝よ、お待ちください。すぐにこの者たちに分からせます」
プロキオンが慌てている。でもなぁ。
俺は頼まれてここに来ただけだ。正直、かしずかれるのは嫌いじゃない。まぁ、嫌いな人はいないだろうさ。だから、プロキオンにかしずかれていい気になった。なっていたさ。ついに俺の時代が始まったね、と。
それでここに来てみれば、これだ。
こんな逃げ道もないような無人島で、原始の生活を営んでいるような連中に敵意を向けられてさ。正直、話が違うって言いたいね。
さあ、どうしよう。
ん?
その魔人族の連中が俺の方を驚いた顔で見ていた。
「私たちの言葉を扱う、だと。ありえぬ」
ああ、俺が魔人語を扱えることに驚いているのか。まさか、言葉が分からないと思って好き放題言っていたのか。
何だかなぁ。
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