115 海と島

 雲を抜ける。


 そこに広がっているのは海だった。そう、海だ。この世界には海があった。いや、まぁ、当然だよな。海がない世界なんて――いや、異世界ならそれもあり得るか。でも海だ。


 とにかく海だ。海があった。


 そして、島が見えてくる。


 大きな島だ。


 大きい。だが、雲に近い上空からなら島の端が見えるほどの大きさでしかない。これは大陸ではないよなぁ。島だ。完全に島だ。ちょっと大きな無人島という感じだろうか。


 先ほどまで自分が居たところは――はじまりの町や王都があった地は、どうだったのだろうか。真夜中だったのと、すぐに雲の上まで飛び上がってしまったため、確認することが出来なかった。

 うーん、多分、大陸って話が良く出ていたくらいだから、島だったのだろう、と思う。さすがに今見えている、この無人島もどきよりは広いだろうけどさ。地平線が見えて、歩いても歩いても海が見えなかったくらいだからね。でも、島だったんだろうなぁ。


 しかしまぁ、雲よりも高く飛ぶことが出来る鳥、か。凄い鳥だよな。魔獣だからこそ、だろうか。いや、それよりも凄いのは自分か? 一気にそんな高度まで上がったら、普通は高山病になるよな? この獣人の少女の体になっていて良かったよ。もし、俺のままだったら……そのまま高山病になって、吐き気や耳鳴りで大変なことになっていたかもしれない。


 うーん、それともこの世界は高度による気圧の差がないのだろうか。そんなことがあり得るのか? でも、魔法がある世界だしなぁ。


 朝日とともに島が近づいてくる。


 この島に魔人族の住む隠れ里があるのだろう。


「帝よ、天気が良ければ大陸が見えるのですが、今日は見えないようです、ね」

 魔人族のプロキオンが海の向こうを見る。


 そちらに大陸があるのだろう。


 大陸って、良く話題に出ていた共通語が標準の場所だよな? この島から見えるような場所にあるのか。結構、近いんだな。


 そして、島だ。


 当たり前だが海に囲まれた島。木々が生い茂り自然あふれる島だ。島の中央には大きな山が見える。火山だろうか? もしかすると、ここは火山の隆起によって生まれた島なのだろうか。


「えーっと、山が……」

 その山の頂上付近には空飛ぶ蜥蜴の姿が見えた。


 空飛ぶ蜥蜴? いや、竜か? でも、竜と呼ぶには蜥蜴過ぎる。竜って言うとさ、もっと、こう、二本足で立ち上がって威嚇するような、どっしりして鱗が生えているようなイメージだよな。あれは、ちょっとイメージと違うなぁ。

「あれは竜ですか?」

「山の上を飛んでいるのはワイバーン種ですよ。竜とは別次元の魔獣です、ね。あまり強くないのですが、食用に適さないため、生かされているだけの存在ですよ」

 割と酷い扱いだった。


「体色が緑でしょう。あれは魔素を取り込めていない証拠ですよ。逆に言えば、魔素を多く取り込み、黒に近づくほど危険度は増すでしょう」

「えーっと、その、例えば体色が黒だとプロキオンとどちらが強いのでしょうか?」

「魔人族の里の総力を集めれば、というところですか、ね」

 プロキオンは少しだけ言葉を濁す。魔人族の里にどれくらいの戦力があるのか分からないが、かなりヤバいというのが分かった。

「出会えば命はないでしょう。大地が、地形が変わるほどの脅威ですよ」

 えーっと、核兵器に戦車で挑むようなものなのか? そんな危険生物が住んでいる世界なのかよ。


「ですが、です、ね。それらを越える可能性を持つのがヤツらの召喚したイケニエ、そして帝ですよ」

「え? へ? えーっと、自分ですか?」

「ええ。そうですよ」

「えーっと、正直に言って、今の自分はプロキオンより弱いかもしれないのですが……」

 プロキオンが笑う。

「ええ。ですが、帝の強さは成長する力にあると聞いています。帝ならば、いずれ私では勝てぬほどの力を得られるでしょう。今でも一度負けています。帝の力は本物ですよ」


 う、うーん。そうなのか?


 成長する力というのはレベルが上がることだろうか。それともBPを振り分けることが出来ることだろうか。でも、それらに近いことは(タブレットがないからすぐに数値が分からないというだけで)普通の人でも出来るみたいだしなぁ。


 俺なんて種族的に本来は使えないはずの魔法が使えるって、それだけだぜ。


 にしても、だ。


 その説明だとさ。


 あの神域にあったゴーレムたちは、その里の全力で戦わないと駄目なような竜と同じか、それに匹敵するってことだよな? 地形が変わるほどの力、か。確かに動かせるようになったら凄い力になりそうだな。


「帝よ、あれが里ですよ」

 プロキオンが指差す。


 そこにあったのは森を切り拓いて作られた小さな村だった。枝と葉っぱで作られた粗末な掘っ立て小屋が並んでいる。木で作られたボロい柵の向こうでは、今自分が乗っているのと同じ鳥が飼育されていた。


 ……。


 原始の生活!


 正直、文明レベルはかなり低い。低いようにしか見えない。


 はじまりの町や王都などが中世だとしたから、ここは原始だ。


 見るからに狩猟が生活基盤って感じだよなぁ。


「あのー、えーっと、魔人族ってどれくらいの数が居るのでしょうか?」

「隠れ里で四十、私を入れれば四十一ほどでしょう」

 少ない!


 それだけなのか。


 いやいや、そんなのすぐに滅ぼされちゃうじゃん。いや、だから、隠れて住んでいるのか? いくら力を持っていても、その数は少なすぎる。


 う、うーん。


 うーん。


 これ、人に喧嘩を売ったら終わるのでは?

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