112 火の粉
「帝よ、もう大丈夫なのですか」
プロキオンが声をかけてくる。
あー、居たね。居たよね。プロキオン、居たよね。
もしかして俺が復活するまで待っててくれたのか。
「あー、えーっと、もう大丈夫です。後、水が欲しいです」
「水です」
プロキオンがパチンと指を鳴らし、水筒を出現させる。行動が早い。
俺はありがたく水筒を受け取り、中の水を飲む。
ぐびぐびっとな。
ふぅ、生き返る。
「えーっと、ありがとうございます」
「これくらいたいしたことではないです、ね」
プロキオンに水筒を返す。
さて、と。
改めてBPを振り分けるかな。
「ところで、帝よ。その、髪の色が……」
ん? 髪の色?
そういえばよく見れば髪の一部が変色している。銀色だった髪がさび付いたように赤く変色している。全体を見ることは出来ないが、もしかして髪色が変わった?
はぁ?
「えーっと、鏡、鏡、鏡は?」
慌てて鏡を探す。だが、鏡なんて便利なものが都合良くある訳がない。プロキオンの方を見るが、首を横に振るだけだ。今度からは空間魔法で持ち運ぶことをおすすめするぜ!
と、そこでキラリと光るものが視界に入る。
例のゴーレムだ。真銀で作られたらしい、このゴーレムは銀色に輝いている。
コイツだ!
俺はゴーレムの元まで走り、今の自分の姿を確認する。
……。
前髪の一房が赤く変色していた。だが、それ以外の部分は変わらない。
ゴーレムの輝く表面には獣の耳を持った少女が映り込んでいる。俺が目覚めた時――水たまりで、自身の姿を確認した時よりは少しふっくらとしただろうか。
獣耳の少女は小さくも鋭い牙を覗かせニタリと笑っている。まさしく俺だ。こんな不気味な笑い方をするのは俺しか居ない。姿は変わったのに、俺だと分かる仕草だ。
はぁ。
まぁ、変わったのは髪の一部だけか。気に入らなければ、最悪、その部分だけを切れば良いだろう。うん、まぁ、髪だしな。
さて、と。
改めてだ。
BPを振り分けよう。
BPの残りは『2』だ。
もちろん火燐に振り分ける。これで魔法が増えるはずだ。
増えた魔法は……『スパーク』という名前だった。
スパーク?
火の粉のことだろうか?
火燐という名前の属性のようだし、間違いなさそうな気がする。そういえば、あの蝶は燃える鱗粉を振りまいていた。それと同じことが出来る魔法ってことだろうか?
とりあえず習得してみれば分かるか。
スパークの魔法を習得してみる。これでBPは『0』だ。
ん?
頭が痛くなったり、激痛が走ったりしないな。ちょっとだけ身構えていたのに……って、別にがっかりしている訳じゃあないけどさ。魔石を食べた時に転げ回るほどの激痛を味わったんだから、習得の段階でも激痛を味わうのは割に合ってないよな。うん、だから、何も起こらないのは正しいのだ。
って、まぁ、そんなことはどうでも良いな。
とりあえず使ってみよう。
――[スパーク]――
俺の目の前に火花が飛び散る。
……。
……。
……。
へ?
それ……だけ?
も、もう一度使ってみよう。
――[スパーク]――
パチン、と先ほどと同じように火花が飛び散った。
は、はぁ。
――[スパーク]――
火花が飛び散る。あー、これ、草魔法と同じように狙った場所に火花を飛ばすことが出来るようだぞ。
……。
えー、あー、マジか。
本当にそれだけの魔法なのか。
草も時も火燐も、どの魔法もゴミばかりじゃあないか。どれもしょぼい魔法ばかりだ。ちょっと酷くないか?
火って名前に付いていたら攻撃魔法だと思うじゃあないか。特に、その魔石の持ち主とは戦っているワケだしさ。それがこれとか酷くないか?
……。
レベルを上げたら少しは変わるのだろうか? いや、でも、サモンヴァインがアレだしなぁ。あまり期待できない気がする。
それに、だ。もうBPが残っていない。試したくても試すことが出来ない。
はぁ。
さて、と。それでこれからどうするか、だな。
ホント、どうしよう。
塔を目指した理由って何だったかなぁ。もう良く分かんないや。
とりあえずは、だ。
「えーっと、そのー、ゴーレムはどうですか?」
俺はプロキオンに話しかける。そのプロキオンが首を横に振る。
「駄目です、ね。帝が休まれている間に確認しましたが、全てのコアが抜かれています」
いや、別に俺は休んでいたワケじゃあないんだけどさ。激痛に耐えていただけなんだけどなぁ。
で、だ。
「えーっと、コアですか?」
「ええ。ゴーレムの動力源なのですよ。それがなければゴーレムは動きません、ね。これだけの宝がありながら!」
はー、ほー。
ゴーレムはコアを動力に動く? 良く分からないが、そのコアというのは魔法的な代物なんだろうな。
「えーっと、そのコアは、もう手に入らないものなのですか?」
プロキオンは首を横に振る。どっちだ? 無理なのか、可能なのか。
「魔石を加工すれば作ることは出来ます。ですが、半端な魔石ではこの規模のゴーレムを動かすことは出来ないでしょう」
魔石、魔石かぁ。
ここでも魔石なのか。
って、もしかして、俺が食べたティアの魔石があれば何とかなったんじゃあないか? アレは特別な魔石だったみたいだしさ。きっとそうだよな?
あー、でも、俺以外には見えないから、その魔石を加工してくれる職人に渡すことが出来ないのか。つまり、結局、駄目だったのか。
さあ、どうしよう。
「えーっと、それでどうします?」
とりあえず魔人族のプロキオンに聞いてみる。
ホント、どうしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます