111 かりん

 タブレットに表示されている文字は『18:56』だ。


 ……。


 えーっと、これ、時刻だよな。時間だよな。


 今の時間だよなぁ!


 うん、確かに時だ。なるほどなぁ。時魔法だからな。そうだよな。間違ってない。間違ってないけどさぁ。


 でも、違うよなぁ。


 時魔法ってさ、もっとこう、時を止められるとかさ、時を飛ばしてそこにあった出来事をなかったことに出来るとかさ、色々あるよな? あるよね!


 でも、何だよ、コレ。


 ゴミ魔法じゃあないか。


 BPの損じゃないか。振り分け損じゃあないか!


 ……。


 いや、待て待て。


 まだだ。


 考えろ。


 何か、何かに使えるはずだ。


 正確な時間が分かるというのは便利じゃないか? それに分かったことがある。この世界にも時計があるってことだ。しかも、この表記の仕方だと……うん、二十四時制だってことだよな? 元の世界と同じってコトか? いや、待て待て。単純に一日を二十四で割っているだけかもしれないぞ。同じ一秒でも元の世界とこちらでは長さが違う可能性だってある。


 タブレットの時刻を見る。


 今は『18:57』だ。この数字が『18:58』になったら始めよう。


 『18:58』だ。ヨシっ!


 心の中で数字を数える。一、二、三、四……六十っと。


 タブレットの時刻を見る。


 『18:58』のままだ。


 ……。


 秒が表示されないのは少し不便だな。


 少し待つと時刻は『18:59』になった。誤差の範囲だな。俺が早く数えすぎただけかもしれない。秒数を正確に数えるのって結構、難しいからな。


 となると、元の世界とほぼ同じ、か。この世界が球体だと仮定して、その大きさや大地の動き、太陽の動きまでほぼ同じってコトか? そんなことがあり得るのか?


 この世界の大きさ、か。


 大地に棒を突き刺して影の動きでも見れば分かるだろうか。


 でも、魔法がある世界だからなぁ。何が起こっていても不思議じゃあない。俺の居た世界と同じようになる魔法が働いていたとしても驚かないぞ。常識に囚われていては駄目だ。


 ま、まぁ、とにかく、だ。


 時間が分かるようになって便利になったと前向きに考えよう。


 それにBPはまだ『1』残っている。時魔法に最後の『1』ポイントを振ってみるのも悪くないだろう。ただ、それだと新しく表示された魔法を習得することは出来ないけどな。つまり、だ。凄く有用そうな魔法が表示されてもすぐには習得出来ないって可能性もあるんだよなぁ。そうなるとちょっと悔しいか?


 うーん、悩むなぁ。


 こんなことなら旅の途中で草にBPを振り分けるんじゃあなかった。それで習得出来たのが葉っぱを開かせるだけの魔法だからな。


 うーん。


 って、魔法?


 俺は背負い鞄をおろし、その中を漁る。


 取り出すのは真っ赤な魔石だ。あの蝶を倒した時に手に入れた魔石だ。


 そう、魔石だ。


 ティアの魔石を食べたことで時魔法を手に入れることが出来た。それじゃあ、他の魔石はどうだ?


 ゴクリッ。思わず唾を飲み込む。


 魔石を食べて大丈夫なのか? 多分、大丈夫じゃあないだろう。危険だろう。力を得ることが出来るのは俺にしか見えない魔石だけって可能性もある。ティアの魔石だけが特別だったって可能性だ。


 リンゴは魔石について何か言っていたか? 覚えていない。


 あー、くそ、頭の中がモヤモヤする。


 えーい、食べてみれば分かることだ。


 赤い魔石を食べる。無理矢理飲み込む。


 うぐ、食べるのって結構、キツい。


 その瞬間だった。


 体が熱い。燃えるようだ。


「帝よ! 大丈夫ですか」

 プロキオンが慌てて俺の方へと駆け寄る。何か返事をしたいが、声を出すことも出来ない。


 み、水……。


 焼ける。


 体が焼ける。


 うぐ、が、はっ。


 燃えるような熱さが続く。


 無限とも思えるような苦痛が時と体を刻む。


 が、はっ。


 どれくらいの間そうしていただろうか。


 熱を飲み込む。


 熱が引いていく。いや、俺の体が熱になれたというのが正しいだろうか。


 もう大丈夫だ。耐えている。もう熱くない。


 いや、熱いのは熱いが問題無い。


 慣れた。


 タブレットを見る。


 タブレットの時刻は『00:12』になっていた。思っていたほど時間は経っていない。


 そして、タブレットの魔法の項目には『火燐』という名前が新しく増えていた。これは……この魔石の力を吸収出来たってことか?


 BPも『2』に増えている。魔石を食べることでもBPを増やすことは出来る、か。他の魔石も試してみたくなるが、先ほどまでの熱さを思い出し、躊躇してしまう。もう一度は、嫌だな。やりたくない。


 いくら力が手に入るといっても、もう一度はやりたくないな。


 だが、だ。


 そう、今は新しく手に入れた力だ。


 せっかくBPも増えたんだ。振り分けてみよう。

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