109 神の器

「えーっと、では、行きましょうか」

 食後の運動を兼ねて出発だ。

「ええ。分かりました」

 ローブの魔人族が頷く。


 うーん、ちょっと前まで敵対していた相手とのんきに仲良く探索っていうのは、どうなんだろうな。まぁ、でもさ、コイツらは人と敵対しているのかもしれないが、俺とそこまでの因縁があるワケじゃあない。確かに出会った時は戦った。でも、それは成り行きだったことだしなぁ。


 まぁ、とりあえず休戦だ。


「えーっと、一応、名前を聞いても良いですか? 多分、聞いていなかったと思うので」

 名前を知るのは重要だよな。基本だ、基本。

「これは、私としたことが」

 ローブの魔人族が腕を曲げ、頭を下げる。

「私の真の名前はプロキオンです、ね。ですが、名前にこだわりはありません。帝の好きなように呼んでください」

「あ、えーっと、自分はタマです」

 一応、名乗っておく。いや、この名前を名乗るのはどうかと思うが、馬鹿正直に本名を教えるのもなぁ。当分はタマで良いだろう。


「タマ帝です、ね。分かりました。それにしてもですよ。外見だけで帝をヤツらの仲間だと思い込んでしまうとは、こちらの言葉を理解し魔法を使った時点で気付くべきでした。恥じ入るばかりです、ね」

 そう言って頭を振った魔人族が俺の名前を咀嚼するように何度も呟いている。いや、何だ、コレ。それに帝って何だよ。いや、まぁ、その帝って呼ばれた存在が過去に居て、その血族だと思われるから、俺のことを帝って呼んでいるのだろうけどさ、それは分かるけどさ、何だ、コレ。


「と、とりあえず進みましょう」

 俺はガラス扉の方へと向かう。その後を魔人族のプロキオンが着いてくる。まるでペットの子犬だな。


 ……。


 うん、気にしたら負けだな。


 俺がガラス扉の前に立つと自動的にその扉が左右へと開いた。自動扉か。ちょっとSFな感じだよなぁ。


 ガラス扉を抜ける。すると、そこには一面に彫刻の施された通路が延びていた。俺のすぐ近くにあるのは女性の輪郭を象ったかのような彫刻だ。そこから吹き抜ける風のような紋様、大地、雲、塔、雷――まるで物語のように彫刻が続いていた。


 ここは神域、か。神話が綴られているのかもしれないな。


 ……。


 あれ?


 俺の後ろを着いてきていたはずの魔人族のプロキオンの姿がない。何処に行った?


 振り返るとプロキオンはガラス扉の向こう側に居た。何故か必死にガラス扉を叩いている。


 ……。


 ……。


 あー、そうか。


 俺はガラス扉の方へと戻る。


 ガラス扉が開く。

「申し訳ありません」

 魔人族のプロキオンがこちら側へと慌てた様子で駆け込み、頭を下げる。

「あー、えーっと、こちらこそ気付かなくてごめんなさい」

 多分、この扉、俺にしか反応しない。どういう原理かは分からないが、そういうことだろう。


 この元々の少女の体に反応しているのか、それとも中の俺に反応しているのか、良く分からないが、とにかく俺が鍵なのは間違いないようだ。


 二人で通路を進む。しばらく歩き続けると道が三つに分かれていた。分岐、か。


 その分かれ道のうち、正面の通路に明りが灯る。まるでこちらへすすめと言わんばかりの光だ。


 うーん、多分、この正面の通路が正解なんだろうな。でも、だ。ゲーマーとしては他の道の方が気になるんだよなぁ。正解ルートだと正解じゃあないか。不正解に進まないと正解になっちゃうじゃあないか。ゲーマーだと、そう考えてしまうんだよなぁ。いきなり正解ルートに進むと取り返しがつかないかもしれないからな。


 ……。


 俺はそこで頭を振る。


 いやいや、ここはゲームじゃあないからな。


 不正解ルートに宝がないか探すとか、そんなことはしなくても――考えなくても良い。それどころか、不正解ルートだと命に関わるような罠がある場合だって考えられるしな。ゲームみたいにあえて不正解を選ぶ必要なんて、ない。


 俺は正面を選ぶ。


 進む。


 壁に灯った光に誘導されるように進む。途中、何度か分かれ道が現れるが、その都度、光が進む先を教えてくれた。


 にしても、ここは何処なんだろうな? 窓がないから良く分からない。星の海を漂っているってコトだけど、本当に宇宙空間なのか? 外が見えないから閉塞感が凄いなぁ。空気とか大丈夫なんだろうか? この施設が一体いつからあるのか知らないけどさ、本当に宇宙ならいずれ空気がなくなってヤバいことになるんじゃあないか?


 うーん、俺の考えすぎだろうか。


 途中、プロキオンに水を分けて貰いながら通路を進む。


 どれくらい歩いただろうか。


 そして、俺たちは巨大な扉に辿り着いた。数時間は歩いたよな? 目的地まで一直線に進んでコレか。結構な広さだ。


 俺が近づくと巨大な扉が自動的に開いていく。


 扉の先には赤い絨毯がまっすぐに伸びている。そして、その左右には控えるような形で巨大な鎧が並んでいた。


「これは……」

 プロキオンが驚きの声を上げる。

「えーっと、これは何でしょう?」

「ゴーレムです、ね。真銀で作られたゴーレムです。これが女神の秘宝!」

 これがそうなのか?


 ゴーレムか。ゴーレムかぁ。


 何というか秘宝というには微妙な感じだな。


 真っ赤な絨毯の上を歩く。ゴーレムは左右に六体ずつ、計十二体並んでいる。槍を持った鎧、剣を持った鎧、斧を持った鎧、様々な武器を持っている。


 大きさは一体が十数メートルくらいか? 確かに大きくて頼りになりそうだが、どうなんだろうな。


 まず、まともに動くのかどうかも分からないしなぁ。


 そんなことを考えながら歩いて行く。


 そして、絨毯の終わりには石を削り出したような形の玉座があった。その玉座の上には灰色にくすんだ石が転がっている。


 石?


 何だ、コレ?

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