二章 帝国神話
107 神話へと至る道
光に包まれる。
真っ白だ。
塔の中に居たはずなのに、いつの間にか真っ白な世界に立っている。
光に包まれた白の世界。
タブレットを置いたことで何が起きたんだ? 何処かに転送された? いやいや、転送って魔法じゃああるまいし……って、ここは魔法がある世界だったな。
それもあり得るか。
しかし、何だ、この真っ白さは? 眩しくもない、だけど真っ白で、光に包まれている。
何だ、何かが起こっているのか?
次の瞬間――光が流れた。
上から下に体が引っ張られるかのような勢いを感じる。体が重力からの解放を求めている。
浮遊感。
何が、何が!?
そして、周囲の様子が変わる。先ほどまでの塔の中ではない。高そうな装飾の施された壁、透明なガラスで作られたような扉。
俺の目の前には先ほどまで見ていたのと同じ台座がある。
台座にはまっていたタブレットがくるりと回転し、持ち上がる。取れ、ということだろう。台座からタブレットを返して貰う。
やはり何処か別の場所に転送されたのか? いや、でも、転送ならタブレットがあるのはおかしいか。台座ごと転送されたって可能性もあるけどさ。いや、それよりは先ほどの部屋ごと移動したと考えた方が良い気がする?
こう、エレベーターみたいに、さ。
エレベーター?
塔。
上にあがる。
まさか、本当にそうなのか?
ここは、何処だ!?
「あ、あ、あ、まさか……」
俺はそこで背後の声に気付く。
振り返ってみると、そこには魔人族が立っていた。あー、コイツも居たのか。一緒に来てしまったのか。
さあ、どうする。
魔人族は驚いた顔でこちらを見ている。今がチャンスか? コイツが立ち直る前に一撃を食らわせるか? それともあのガラスの扉から逃げるか? 前回と同じように草魔法で目潰しをするか? いや、コイツは対策をしていると言っていた。草魔法が効かない可能性があるな。傷を治してきているのも不安材料だ。何らかの治療する方法を持っているってコトだからな。
さあ、どうする?
俺が考えている間に魔人族は正気に戻った。そして……、
……。
魔人族が膝を折り、跪く。
え?
何だ?
どういうことだ?
「あ、えーっと……」
「帝よ。今までの無礼を許して欲しいです」
帝?
「え? いや、えーっと、どういうことで、何が何だか、それにここは何処だ?」
「ご説明します。ここは神域、エスティア神域だと思われるのです、ね。あ、失礼しましたです」
「あー、えーっと、普通に喋って、普段の口調で大丈夫です」
この魔人族からの敵意が消えている。いや、それどころか、何か神にでもあったかのような、こちらを崇拝しているかのような――そんなオーラを感じる。
「そ、そういう訳にはです、ね……」
「あ、えーっと、それで、その神域ってのは何でしょう?」
「え? ああ、はい。何も知らなかったのですか? 分かりました、最初から説明しましょう」
最初から? 何だろう、凄く長くなりそうな、この世界の歴史を一から話し始めるような感じだ。いや、さすがに、それは勘弁して欲しい。普段の時ならお願いしたいくらいだが、こっちは体力の限界なんだ。ゆっくりと休みたいところなんだよ。
「あ、えーっと、後でゆっくり聞くので要点だけお願いします」
「はい、分かったのですよ」
魔人族は真面目なのか不真面目なのか分からない言葉遣いで頷いている。これ、翻訳の問題なのかなぁ。俺は勝手に自分の知っている言葉に翻訳しているみたいだけどさ、意訳になってないか?
「えーっと、塔を探していた理由って何です?」
「それは、ここ、神域を目指していたからです。隠されていた真の塔は、遙か上空、星の海に漂う神域へと繋ぐ道です、ね」
ん?
星の海?
って、まさか、ここ宇宙空間か? 塔から宇宙に漂っている、この神域とやらまで飛ばされたのか?
あの光って、防護膜みたいなものだったのか?
塔じゃあなくて、発射台?
……。
俺、良く生きていたな。
「神域への道を開くためには鍵と血族が必要です。鍵はヤツらが私たちから奪ったものです。ヤツらの町を探したのですが、見つからなかったのです」
あー、それではじまりの町を襲ったのか。
「重要なのは鍵と血です。帝の血族でなければ塔を起動することは出来ないからです、ね。そう伝わっています」
魔人族は俺が何も知らないと思ってか、補足しながら、こちらが分かるように説明してくれる。
うーん。
血族、ね。
ちょーっと疑問が残るなぁ。いや、だってさ、そうなってくると、この体、獣人の少女が帝とやらの血族だったってことになるだろう? でもさ、この塔を起動させたタブレットは、俺が、俺自身が手に入れたものだからさ。ちょっとおかしくならないか?
この魔人族が血族だったから起動したって可能性もあるんじゃあないか? いや、ないか。
タブレットを使ったのは俺だ。俺自身だ。
しかも、この魔人族には台座もタブレットも見えていなかった。そう、見えていなかったんだよなぁ。
うーん、可能性は色々と考えられるけど、全て推測の域を出ないなぁ。
「ヤツらが凄腕の強力な護衛を雇っていたのも納得です、ね。血族と鍵、両方を守っていたのですから、ね」
この魔人族は何やら色々と勘違いしている。
あの護衛に俺が参加したのはたまたまだ。それに、だ。護衛はリンゴと俺だから。確かに狼少女は凄かったけど、あくまで御者だしなぁ。
それに、だ。
そんなに俺が重要人物だったら、放り出さないと思うのだ。塔まで一人で旅をさせないっての。俺がどれだけ大変だったか。
この魔人族の中では、そこのところはどうなってるんだろうな?
「あ、えーっと、失礼ですが、その言い伝えが間違っている可能性は?」
「ありません」
ないのかよ。
ここまで言い切るってコトは確証のある何かがあるんだろうな。
うーん。
どうしよう。
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