104 終着

 ほんのりと青く光る謎の金属で作られた通路を歩く。どう見てもここは正規の道ではない。本来の入り口は別にあるのだろう。


 黒い金属が青く発光している――これ、体に有害な物質とか放出されてないよな? 青く光るとか危険な香りしかしない。


 ……。


 まぁ、進むか。俺が出来ることはそれしかない。


 ……。


 進めば、この先に誰かが居るかもしれない。誰かに出会ったら、食料を分けて貰って、水も分けて貰って、それでそれで――帰ろう。そうだ、帰ろう。


 帰るために進む。


 ……。


 ここはヤバい感じがする。俺の、いや、俺の体が、ここは危険だと叫んでいる。拒絶している。何だろうな。これは。


 でも、進むしかないだろうが。


 ……。


 この塔は何かヤバいのか? いや、でも定期的に、清掃に来るような場所が危険だというのは、少し考えづらい。この場所に何か異常でも起きているのか?


 ……。


 良く分からないな。


 とにかく進もう。


 空調のために作られたとしか思えない通路を歩く。


 しばらく歩き続けると通路の終わりが見えてきた。道が途切れている。進む。通路の終わりは――その先は大きな広間になっていた。今、俺が立っているのは、その広間よりも高い位置だ。上から広間をのぞき込んでいる。やはり、この通路は空調のために作られたものだったようだ。


 そして、おあつらえ向きに通路の終わりには下の広間へと降りるための紐が結ばれていた。この紐を伝っていけば下に降りられるのだろう。


 にしても、この紐、誰が結びつけたんだろうな。元々は格子でもあったのか、その残骸のような出っ張りに、紐が上手く結びつけられている。紐を強く引っ張ってみる。うん、なかなか丈夫だ。これなら紐が切れる心配はないだろう。


 紐を伝って広間へと降りていく。登って降りて……ホント、忙しいな。魔法協会の連中は、こんな感じで塔の中に入っているのかな。毎回毎回これだと途中で面倒になりそうだよな。重装備だったら……うーん、それは、ちょっと考えたくないなぁ。


 俺は広間に降り立つ。


 何も無い広間だ。ただ、広いだけの部屋――ドーム球場に迷い込んだかのような気分になる広さだ。


 広間の床は青く光っていない。どうも光っているのは塔の外周? の壁部分だけのようだ。


 広間の奥に通路が見える。かなり大きな通路だ。入り口が自分の背丈の何倍もある大きさだ。やはり、この塔を作ったのは巨人じゃあないだろうか。人とはスケールが――間隔が違い過ぎるよな。


 通路を目指し広間を歩く。


 誰もいない。魔獣も居ない。


 えーっと、確か、魔法協会の連中は魔獣の掃除を依頼していたんだよな?


 ……。


 だが、ここには何も無い。そう、戦いの跡もない。魔獣を倒して、その魔獣を持ち帰った可能性もある。だが――そう、だが、だ。その戦いの痕跡が無いのはどういうことだ?


 魔獣の血であったり、傷跡であったり、ここで戦いがあったのなら、某かの痕跡がここに残っているはずだ。


 だが、ここには何も無い。


 どういうことだ?


 ……。


 ……。

 ……。


 そこで俺は気付く。


 まさか、違うのか?


 俺は連中が言っていた塔を、この何処からでも見えている塔だと思っていた。思い込んでいた。だが、まさか違うのか? 違う場所のことなのか?


 いや、だったら、外のテントはどうなる。あれは新しかった。説明がつかない。


 そうだ。ここで間違っていないはずだ。そのはずだ。


 でも、じゃあ、何で誰もいないんだ。


 分からない。


 通路を目指し進む。


 大きな広間を抜け、そのまま通路に入り、進む。


 一本道だ。他に道は無い。


 塔なのに、上に登る訳でも無く、通路を進むってのはどうなんだろうな。この先に階段があるのだろうか?


 黙々と進む。


 そして、辿り着く。


 先ほどの大広間よりもかなり狭い部屋だ。先ほどの大広間がドーム球場くらいの広さだとしたら、ここは小さめの体育館くらいだろうか。


 ……。


 道は無い。道はここで終わっている。この広間が行き止まりだ。


 どういうことだ?


 何かがおかしい。


 違和感を覚える。


 ……。


 その行き止まりの広間の中央には小さな台座が置かれていた。今の俺の背丈よりも少し小さいくらいの、人用に作られたとしか思えない台座だ。


 通路も部屋も大きかったのに、台座は人のサイズに合わせてある。


 どういうことだ?


 この台座は何だ?


 ここは何なんだ?


 魔獣は?


 何処に魔獣が居るんだ?


 ここは綺麗すぎる。この塔の内部は綺麗すぎる。とてもじゃあないが魔獣が生息している――していたとは思えない。


 何なんだ、ここは?


 この台座は何なんだ?


 俺は台座をよく調べるため近寄ろうとする。と、そこで何者かの気配を感じた。


「ここが真の塔ですか、ね。あなたを尾行して正解だったようです、ね」

 俺の背後から何者かが喋っている――俺へと話しかけている。


 何者か? いや、分かっている。


 俺は振り返る。


 そこに立っていたのは、俺が崖の下へと突き落としたはずの魔人族だった。


「生きていたのか」

「まったく、困ったものですよ。あなたには不覚を取りました、ね。ですが、もう通用しませんよ」

 赤い瞳、青い肌に黒い髪、そして山羊の角を持ったローブの男。


 間違いない、あの時の魔人族だ。

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