103 侵入
テントに駆け寄る。
だが、誰もいない。そこには誰もいない。
テントが並んでいるだけだ。
……。
並んでいるテントの殆どがタープテントだ。柱と柱の上に布がのせられているだけのシンプルな造りだ。
せめて食べる物が、飲み物がないか漁る。タープテントの下には何も無い。となると、テントらしいテントの方か?
テントの入り口を開け、中を覗く。だが、何も無い。何処にも何も無い。
あるのは空っぽの木箱。何も乗っていない荷車。
誰かがここに居た。誰かがここにものを運んでいた。
その痕跡だけがある。残っている。
何者かに――例えば魔獣とかに襲われて逃げだした? いや、それにしては綺麗すぎる。争った跡や荒らされた形跡がない。
……。
何かがあって皆が逃げだした後、盗賊などに荷物を綺麗に奪われた? そういう可能性もあるか。考えられることは色々ある。でも、なぁ。うーん。考え始めたら切りがないな。
さて、どうする? どうしよう。
これだけ――頂上が見えないほどの巨大な塔だ。麓に町などがあるんじゃあないかと考えていたが、アテが外れた。
だけど、だ。
テントはあった。しかも、見た感じ、設置されたばかりのテントだ。
多分、このテントを設置したのは魔法協会の依頼を受けた探求者たちだろう。テントの数は多い。十や二十どころじゃあない。かなり大規模な集団がここに居たはずだ。百人、二百人くらいは居たんじゃあないだろうか。
だけど、その誰一人残っていない。人影がゼロだ。
塔の清掃に行ったとも考えにくい。全員が向かう訳が無いからね。誰かは残っていたはずだ。
なのに、誰もいない。
ここで何かがあったのは間違いない。
だが、その何かが何だったのかは分からない。
どうする?
俺はどうすれば良い?
ここに来れば、何とかなると、それだけを考えて、それだけを希望に歩いてきた。正直、心が折れそうだ。
……。
いや、駄目だ。
心が折れたら死ぬだけだ。俺は……死にたくない。じゃあ、どうする? どうすれば良い?
……。
塔を目指してきたんだ。塔に入ろう。
ここにテントが並んでいるということは入り口がこちら側にあるってことだよな? 塔の側にはおあつらえ向きな階段がある。塔まで続く階段が見えている。
この階段の先が入り口で間違いないだろう。
階段を上がる。階段というか、段差というか……。
近寄ってみて気付いたが、階段の一段が高い。両手を伸ばし飛び上がって登るような高さの段差だ。一段が一メートルくらいはあるのか? 塔も大きければ階段も大きい。
この塔を作ったのは巨人だろうか。数十メートルクラスの巨人が作ったって言われたら信じそうだ。
それだけデカい。とにかくデカい。
段差を乗り越え登っていく。
そして、その先にあったのは――塔の壁だった。
……。
はぁ?
壁じゃん。壁かよ。てっきり扉でもあるのかと思ったら壁だ。
……。
いや、待てよ。
よく見ろ。
階段から外れた場所、その塔の壁部分に紐が伸びている。そう、紐だ。俺は紐の先を見る。
そこに小さな穴が空いていた。空気を取り入れるための窓か? その窓から紐が垂れている。ここが、これが入り口か。塔の入り口か!
塔の中に誰かが居る可能性もある。塔の中に町がある可能性だってある。頂点が見えないほど、端が見えないほど、とにかく巨大な――これだけ巨大なんだ、あり得るよな。
気力を振り絞り、紐を目指す。
そして、辿り着く。紐は太く丈夫だ。これなら鎧を着込んだような重量級でも大丈夫だろう。まぁ、そんな重しのある状態で紐を登りたいかって言われたら遠慮したいけどさ。
梯子でも、いや、階段でも作れば良いのにさ。何で紐なんだ? 紐じゃないと駄目な理由でもあるのだろうか? 例えば階段だと魔獣に壊されるとか?
まぁ、考えても分からないな。
中に入ってみよう。
紐を掴み空気窓を目指す。しかし、この塔は何なんだろうな。ほんのりと青く光る黒い金属で作られた巨大な塔。何のために作られたかも分からない。
空気窓から塔の中へ。そこは細長い通路になっていた。
塔の中に入ったのに、入ったって感じがしないな。空調とかそんな感じの配管を通っている気分だ。
とにかく進んでみよう。何処かで塔の内部に降りられる場所があるはずだ。
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