099 苦労

 喉が焼ける。


 あの水を飲むのは不味い。あんな腐った水を飲めば、また、お腹を下しそうだ。再びお腹を下すのは、それだけで旅を続けるのが不可能になりそうなヤバさを感じる。


 でも、どうする?


 タブレットを見る。思わず見てしまう。



 レベル11

 称号:エレメント火・ボアキラー・ノービス・ごっこ勇者

 クラス:無し

 BP:3

 スキル:共通語3

     共通語書読1

     魔人語3

     辺境語0

     獣人語0

     音感0

     察知0

     剣技0

     槍技1

     ・二段突き1

     斧技0

     盾技0

     火耐性0

 魔法:草3

   ・サモンヴァイン2

   ・グロウ1

   ・シード1


 レベルが『1』だけだが、上がっている。それだけ、この蝶が強敵だったということだろうか。


 ……ん?


 え? BPが『3』だと?


 ちょっと前はBPが『1』だったよな? そこからレベルが『1』増えて、BPは『2』じゃあないのか? どういうことだ? レベルが二桁からはBPが『2』ずつ増えるのか? 分からない。喉の痛みが酷くてまともに考えられない。


 とにかくBPが『3』だ。


 これを振り分けて何か解決策を……。


 痛む喉を押さえ、首を横に振る。駄目だ。確実性のないものに頼るのは駄目だ。今ある手札で何とかするべきだ。


 ……。


 となれば……。


――[サモンヴァイン]――


 草を生やす。


――[グロウ]――


 草を成長させる。


 その草を噛む。食べる。


 微妙な喉ごし……。


 だが痛みが和らいでいく。


 もう一度だ。


――[サモンヴァイン]――


 草を生やす。


――[グロウ]――


 草を成長させる。


 その草を摘み、噛む。あふれ出る汁を喉の痛い部分に触れるよう流し込んでいく。正直、痛みと合わさって微妙な味だ。だが、痛みは和らいでいく。これで何とかなりそうだ。


 この成長させた草は若干だが魔素を含んでいる。魔素はこの世界での活力の源だ。いや、微妙には違うのかもしれないが、そう思っておけば間違いないだろう。

 活力のもととほんのりとした甘み。これで何とかなると思って食べてみたが――うん、何とかなりそうだ。


 正解だ。


 少し気分が落ち着いてきた。


 ふ、ふぅ。


 喉の渇きが癒えたワケじゃあないが、これで何とかなりそうだ。後は、そうだな。早く水を何とかする手段を手に入れるべきだな。これが重要だな。


 となると、どういう方法だ? 考えられるのは……。


 水を沸騰させる、か。これは鍋か、その代わりになるものがあれば何とかなりそうだ。


 後は、湖や川などで水を飲むってのもアリか。ただ、これは水が綺麗なこと前提だ。


 ……。


 どちらにしても水を煮沸する手段が必要だよな。あった方が良いなぁ。まぁ、でも、その方法は――それは歩きながら考えよう。もしかしたら何か使えそうなものが落ちているかもしれないしな。


 それよりも、だ。


 称号が増えている。まずはこれだよな。『エレメント火』か。これは、この蝶を倒したからなのか? それとも喉が焼けるような痛みに耐えたからか? 分からないな。


 後、増えているのは『察知』と『火耐性』か。『火耐性』はとても便利そうに見える。だが、よく考えてみたら謎だよな。


 火って何だ?


 何処から何処までが火なんだ?


 燃えている炎に手を突っ込んでも大丈夫とか、そういうことなのか? 火傷しないとか? それとも魔法的な『火』だけが大丈夫なのだろうか? そうなってくると使い道がないというか、あまり使えないスキルのような気がする。魔法で襲撃されるようなことがない限りは必要無いってコトだものな。


 ……。


 とりあえずは保留だ。毎度毎度、このタブレットを見る度に思っていることだが、このタブレットの力に頼りすぎるのは不味い。これも力だから、必要であれば使う。だけど、この力に依存してはいけない。


 とまぁ、そう思っている訳だが……。


 とりあえず、この蝶を鑑定してみよう。言った側から力に頼っているワケだけど、これは依存じゃあないから、便利に使っているだけだから。使いこなしているだけだから。そう、そうなのだ。


 んで、鑑定は……っと。


 ん?


 タブレットを蝶の死体にかざしてみるが反応しない。


 何故だ? 死んでいるからか?


 うーん。基準が分からないな。狼の死骸は鑑定出来たよな? 何が違うんだ?


 と、とりあえず魔石がないかを調べるか。


 あまりやりたくないが蝶の中心部――虫の胴体を草紋の槍で開く。ぐちゅ、ぐちゃっとした嫌な感覚。白や黄色の良く分からない粘液があふれる。


 うーん、グロい。


 そして、その胴体の中から真っ赤な魔石が現れた。


 赤い。


 これは高く売れそうだ。

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