090 外へ

 布の服、布のズボン、黒獣のブーツを身につけ、ボロい鞄を背負う。草紋の槍と青銅の槍、売ろうと思ってかき集めた鉄の槍を持つ。俺は力持ちだからな。重そうな荷物でも楽々だ。

 そういえば、この黒獣のブーツよりも、この間、王都の外の町で買った布の服と布のズボンの方が品位は高いんだよな。高品位な品だからな。良く分からず高品位のものを選んだけど、何が違うのだろうか。並んでいた中品位の品と見た目的には同じようにしか見えなかったからな。微妙に糸がほつれているとか、サイズが違うとか、そんな違いはあったけどさ、それで何かが変わるほどの違いとは思えなかった。


 本当に何が違うんだ?


 まぁ、良い。それは今は良いさ。


 この王都の魔法協会? 魔法学院? とも、これでオサラバだ。

「頑張って元気に生きるんだよ」

 寮母さんである割烹着の猫人さんが見送りしてくれる。この人は良い猫人だったなあ。少々、お節介な感じを受けたが良い猫人さんだった。タダでご飯が食べられて寝る場所もある。お風呂もあった。そう考えれば悪い場所では無かったかもしれない。ホント、そこは良かったな。


 王都の外へ出るため、門へと向かう。


 壁――門の前には門番が立っている。王都の内側にも、外側にも門番が居るんだから、かなり厳重だよな。

「今日は君のご主人の荷物持ちかい?」

 門番が話しかけてくる。鉄の槍などの武器を抱えているからな。これが売るためや自分用の武器とは思ってくれないのだろう。

「えーっと、町の方へ出るので通してください」

「それは構わないが、ここを出ると王都には戻れなくなるよ。大丈夫かい?」

 ん?


 今回は札をくれないのか。もしかして、俺が魔法学院の制服を着ていないからか? 外見で判断するのかよ。これ、魔法学院の制服が盗まれたらどうするんだ?


 ……。


 だから返さないと駄目だったのか?


 まぁ、良いか。


「えーっと、大丈夫です」

 もう戻って来るつもりはないからな。まぁ、何かの用事で来ることはあるかもしれないが、好んで来ることはないだろうさ。

「えーっと、それよりもギルドと探求者向けの服などを売っている場所を教えてください」

 そうだ。ここに戻って来るコトなんてどうでも良い。そちらの方が重要だ。


「あ、ああ。そうか、それなら、ここの前の通りを進み、三区画目で曲がると見えてくるだろう。ギルドも同じ場所にあるからすぐに分かるだろうね」

 なるほど。しかしまぁ、今回は一緒にきてくれないのか。まぁ、一緒にこられても困るけどさ。これも魔法協会の制服を着ていないからなのかなぁ。ありそうだな。


 ま、良いさ。


 とにかく買い物だ。


「ありがとうございます。行ってみます」

「ああ。だが、あそこはガラの悪い連中、探求者どものたまり場になっている。気を付けるんだぞ」

 何だろうな。王都の門番は探求士という職業を――探求者たちを嫌っている感じがするな。嫌っているというか見下している感じだろうか。


 まぁ、王都の門番からすれば探求士なんて底辺の職にしか見えないか。


 ……。


 王都の外に出る。


 やっと解放された。


 自由になった気分だ。


 王都は駄目だな。短い間だったが、その雰囲気というか、流れている空気というか、もう、それだけで駄目なのが分かった。貴族連中というか、成金連中というか、上のヤツらが住む世界って感じだった。俺みたいな庶民には息が詰まる感じだったよ。


 はぁ、でもさ、これで、やっと自由だな。


 教えて貰ったとおりに大通りを進み、三区画目を曲がる。すると遠目にも分かるくらい大きな平屋の建物が見えてきた。アレがギルドなのだろう。狩人と探求者のためのギルド。俺が所属している組織だ。と言っても俺は成り立ての一番下っ端なんだけどさ。

 銅のギルド証しか持ってないもんな。その試験の途中で、ここまで来るなんて――ホント、長かったよなぁ。


 ギルドの方へ歩いて行くといかにもガラの悪そうな連中が増えてくる。荒くれどもだ。その荒くれどもが何か不安そうな顔で俺に話しかけてくる。外見とは違う弱々しい感じだ。


 何だ?


 何を言っているのか分からない。


 ここでも言葉の壁か。


 良く分からないので無視してギルドの方へと歩いて行く。すると肩を掴まれた。


 そのまま良く分からない言葉で話しかけられる。だから、言葉が分からないっての。


 ……。


 荒くれは何か必死に喋っている。うーん、分からん。


「えーっと、誰か共通語が出来る人は居ませんか?」


 ……。


「お嬢ちゃん、そいつはね、あんたがギルドの方に向かっているから心配になって止めてるんだよ」

 荒くれどもの中から犬頭のお姉さんが現れる。こう、体のラインが分かるような革の鎧を身につけた、とても精悍な顔の犬頭のお姉さんだ。

「えーっと、何故?」

「あんたみたいな子どもが、うちらみたいな荒くれどもの巣に飛び込まないように、でしょ」

 犬頭のお姉さんが教えてくれる。あー、なるほど。荒くれなのに随分と優しいんだな。


「あ、えーっと、大丈夫です。自分は探求者です」

「へぇ、そうなの。大陸語を喋っているし、って、もしかして大陸の探求者? 見た目で騙された? あ、そうなると……お嬢ちゃんなんて言ってごめんなさい」

 犬頭のお姉さんの態度が少し変わる。こちらを値踏みするような、何か探りを入れているような――そんな感じへと変わる。


「えーっと、大陸の探求者ではないです」

 俺は銅のギルド証を取り出し、見せる。あー、最初からこうすれば良かったな。


 それを見た犬頭のお姉さんは、何処かホッとしたような、何処か呆れているような表情に変わる。


「あのね、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんが探求者だったのは分かった。でもね、王都は銅の探求者がやっていけるほど甘い場所じゃないの。銀とは言わない、せめて鉄になってから来なさい」

 あー、なるほど。


 俺ってば最低の銅だもんな。次が青銅で、その次が鉄か。


「えーっと、お姉さんは?」

「うちは銀。こう見えても銀なのよ」

 なるほどなぁ。


「えーっと、凄いですね。それで旅用の服装や旅の道具が買いたいので、ここ、通っても良いですか?」

 そう、俺は買い物に来たのだ。ギルドに寄るのはまだ早いって言うのならば、買い物だけして帰るだけだ。それが目的だしね。


「あのね……」

 犬頭のお姉さんは何故か大きなため息を吐き出している。

「えーっと……」

「ああ、分かった。分かったわ。うちが案内してあげる」


 ……。


 良く分からないが案内してくれるようだ。

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