091 店へ
犬頭のお姉さんの後をついていく。
「いや、あのさ、お嬢ちゃん」
「えーっと、はい、何でしょう?」
犬頭のお姉さんと歩きながら会話を行う。
「聞いて良いのか悩むところだけどさ、お嬢ちゃんが抱えている、その沢山の槍、それは何?」
ん?
ああ。これのことか。
「えーっと、売ろうと思ってます。何処か買い取ってくれる場所はあるでしょうか?」
はじまりの町にあったような買い取ってくれる場所があれば良いのだけど。
「う、売るのか。でも、お嬢ちゃん、何処からそんなにも槍を手に入れたの? まさか盗んだんじゃないだろうね」
む。むむむ。盗んだ訳じゃない。そこを疑われるのは不味いなぁ。不味いかなぁ。でも、正直に答えて良いのかどうかも悩むんだよなぁ。窃盗にならないだろうか? いくらこちらへと襲いかかってきた山賊から得たものだとしても、だよ。
……。
うーん。まぁ、あの狼少女が大丈夫だと言っていたから――うん、多分、大丈夫だろう。そういえば、あの狼少女、金のプレートだったなぁ。
って、ん?
この犬頭のお姉さんは銀のプレート――ギルド証だったよな? ってことは、この犬頭のお姉さんよりもあの狼少女の方が上なのか。何だか急に銀のギルド証がたいしたことがないように思えてきたぞ。
「えーっと、山で襲いかかってきた山賊から貰いました。それを売るのは問題がありますか?」
「ん? へ? お嬢ちゃん、何を言っているの?」
犬頭のお姉さんは良く分からないという感じで首を傾げている。山賊から奪ったって素直に言うべきだったのかなぁ。
「えーっと、ところでギルド証って銀と金、どっちが上なんでしょうか」
「そりゃあ、金だよ。うちが銀で悪かったね」
さっきまで首を傾げていた犬頭のお姉さんが肩を竦める。
「あ、いや、えーっと、そういう意味ではなくて、この王都まで一緒に旅をしたフォーウルフの少女が金のプレートだったので……」
俺の言葉を聞いた瞬間、犬頭のお姉さんの雰囲気が変わった。ピリピリとしたような、周囲を威圧するような雰囲気を纏っている。
「それは白毛の?」
「えーっと、はい。そうです」
「お嬢ちゃんは白狼姫のなんだい?」
白狼姫? あの白毛の狼少女のことなのだろうか。何だろうな、これ。返答を間違えたら大変なことになりそうな気がする。
「あ、えーっと、その、あなたが言われている白狼姫さんかどうかは分かりませんが、この王都までの旅の馬車の御者がそうでした」
「あの白狼姫が馬車の御者? 何だか良く分からないね。お嬢ちゃん、ゴメンね、どうも人違いだったようだね」
どうやら人違いだったようだ。まぁ、俺にはフォーウルフさんたちの違いなんて殆ど分からない。似たような顔かたちで毛色だったら、もうお手上げだ。だから、人違いと言われたら、そうかも、としか思えない。
それに、だ。
俺、あの狼少女の名前を覚えてないんだよなぁ。いや、そもそも聞いたか? 聞いてない気がする。
いや、それよりもだ。話が逸れている。逸らしたのは自分だけどさ。
「あの、えーっと、それで、この槍を売れそうな場所ってありますか?」
旅道具一式を買う前に、少しでも足しにしたい。正直、邪魔だしね。
「ああ。そうだね。今から案内する店なら、ああ、その槍なら売れるだろうね」
犬頭のお姉さんが俺の槍を見てくれる。
「槍は詳しくないんだけどね、ああ、でもそうだね、この槍は高く売れそうだよ」
そう言ってくれたのは草紋の槍だった。
いや、その槍を直すために、はるばる王都まで旅をしてきたんです。さすがに、それを売るのは……無い。
「あ、いや、えーっと、それは売りません」
「あ、そうなのかい? っと、おっととと、そこの店だよ。話をしていて通り過ぎるところだったね」
それはギルドを通り過ぎてすぐの場所だった。通り過ぎたギルドは学校くらいの大きさだったが、それと比べると随分と小さめだ。だが、それでも、それなりの大きさはある。ちょっとしたコンビニよりは広いだろう。
店の中に入る。
奥のカウンターにはぶすっとした表情の猫人が座っている。
「あ、えーっと、すいません」
奥のカウンターまで歩き、その猫人に声をかける。だが、返事はなく、ギロリと睨まれただけだった。
……。
えーい、気にしては負けだ。
カウンターの上に鉄の槍を並べる。
「買い取りをお願いします」
ぶすっとした表情の猫人がカウンターの上に鉄のプレートを置く。これを取れば良いのかな。
「ここだとギルドの査定対象にならないが良いのか」
俺が鉄のプレートに手を伸ばすと、その猫人はぶすっとした表情のまま、そんなことを喋った。
ギルドの査定対象?
「あー、えーと……」
どういうことだ?
「ああ、その子、銅だから。まだここのギルドには早いからさ」
俺が困っていることに気付いたのか犬頭のお姉さんが代わりに答えてくれた。そういえば、王都のギルドはまだ早いみたいなことを言われていたな。うん? いや、でもさ、王都で生まれ育って、そこでギルドに入ろうと思った人たちはどうなるんだ? 地方に行けってことなのか? 王都にギルドがあるのに? わざわざ? うーん。謎だ。
「そうか。査定が終わるまで店内の商品でも見ていろ」
俺はぶすっとした表情の猫人から鉄のプレートを受け取る。
う、うーむ。何というか無愛想だ。俺の居た世界とは大違いだな。媚びへつらえとか下手に出ろとは言わないけどさ、もう少し愛想が良くてもいいんじゃあないか。
「それで、お嬢ちゃんは何が欲しいの?」
犬頭のお姉さんが聞いてくる。どうも一緒に装備品を見繕ってくれるようだ。
「いや、えーっと、何故?」
「何故ときたかね」
「あ、いや、えーっと、親切にしてくれる理由がないかと思って、です」
俺はこの世界で忌み嫌われている半分の子らしいのに、な。裏があるんじゃあないかと思ってしまう。
「ギルドの駆け出しの面倒を見るのは先輩の役目だからね。それにギルドなら生まれも関係ないからさ。お嬢ちゃんは良い選択をしているのだよ」
犬頭のお姉さんが片目を閉じ微笑む。
「あ、はい。ありがとうございます」
全てを信じるのは、まぁ、難しいけどさ。
でも、お言葉には甘えておこう。
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