059 襲撃
そうやって一日目が終わり、何事もなく二日目も終わった。
そして、三日目にもなると随分と歩きに余裕が出てきた。俺も旅に慣れてきたってコトだな。まぁ、一日中歩いているもんな。
魔獣も現れない静かな草原を旅しているので暇になってくる。
「えーっと、そういえば、確か、はじまりの町の復興援助のために、あのおっさんを王都まで護衛する仕事だったんですよね?」
キョロキョロと周囲を見回しながら歩いていたリンゴがこちらへと振り返る。
「うむ。その通りなのだがな」
キョロキョロと首を動かしているのはズタ袋で視界が悪いからなのだろうか。
「ええ、えーっと、それでですね、こんなにのんきにのんびりで良いのかなぁ、と」
そうだ。そうなのだ。
護衛である俺やリンゴは歩いている。そう、歩いているのだ。オークの襲撃でボロボロになった町を助けてもらいに行くのが、こんなのんびりで良いのだろうか。
俺はてっきり馬車に乗ってサクッと王都に向かうのだと思っていた。それで五日かかるのだと思っていた。あの門番の犬頭もそのつもりだったのでは無いだろうか。
だが、こんなにのんびり歩いていて大丈夫なのか? これで、本当に五日で王都まで辿り着けるのか?
「……それは、多分、大丈夫なのだ」
ん?
「それって、どういう……?」
「それよりも、タマちゃん。気になることがあるのだがな」
あ、はい。なんでしょう。
「魔獣の姿がないのだ」
あー、そういえば確かに。魔獣が少ない場所を選んでいるのかと思ったが違うのか。
「えーっと、普段はこうではない?」
ズタ袋のリンゴが頷く。
「悪い予感がするのだ」
……。
リンゴは周囲を警戒している。
う、うーむ。俺ものんきに喋っている場合じゃないのかな。まぁ、護衛だしなぁ。でも、静かに黙々と歩くのも疲れるんだよな。
まぁ、でも仕方ないか。仕事だもんな。
その後、草原を黙々と歩き続ける。
リンゴの予想は外れ、何事もないまま昼食休憩になる。
今日もトウモロコシの塊を囓っているようなモソモソとしたパンもどきに干し肉だ。馬車に積んでいた食料はもっと良いものがあったと思うんだけどさ。幌馬車の方を見る。中は見えない。狼少女とおっさんは良いものを食べてそうだなぁ。護衛だからって扱い酷くない?
そんな食事を行っている時だ。俺はあるものを見つける。
「リンゴ、これ!」
それは木の枝だ。武器として扱えそうな形の手頃な木の枝だ。
おー、おー。
俺は木の枝を拾い、剣のように振り回す。
「タマちゃん、何をしているのだ?」
「勇者の武器ですよ、これは!」
いや、英雄の武器だったか。
「タマちゃんは面白いことを言うのだ」
リンゴが笑っている。なんというか微笑ましいものを見るような、親戚の子どもでも見ているかのような笑い方だ。
あ、えーっと、ちょっと子どもみたいにはしゃぎすぎたか。
これは、アレだ。これで寒天と戦った時のことを思い出してだな。
……。
何と無しに、その木の枝を鑑定する。深い意味があった訳じゃない。英雄だか、勇者だか書かれていたから、もう一度、鑑定で表示された文章を確認してみようかな、と軽く考えただけだった。
だが、表示されたのは……。
名前:木の枝
品質:低品位
何処にでもある木の枝。
それだけだった。
え?
どういうことだ?
あの時の木の枝が特殊だったのか?
そ、そうだ。アレだ。
俺は背負い鞄からアダンの実を取り出す。そうだ、これも鑑定していた。これは、どうだ?
鑑定する。
そして、表示されたのは……。
名前:アダンの実
品質:低品位
食用の果実。心を落ち着かせ疲労を回復する。
簡単な説明だけだった。
どういうことだ?
あの時の木の枝やアダンの実が特別だった? いや、でも、この果実なんて、見た目は同じようにしか見えない。大きさは、全く同じではないだろうけど、どう見ても同じ果実だ。
まさか、俺が死んだから、か。
この獣耳の少女の体になったからか?
俺は、てっきり、ここは死ぬ前と同じ世界だと思っていた。だけど、似たような別の世界に転生した? いやいや、あり得ないだろう。
だって、あの塔は見えている。
俺が死ぬ前と同じように、あそこに塔は建っている。塔はあるんだ。
それに、だ。
このタブレットは草狼から取り戻した。俺を食い殺したと思われる草狼から取り戻したんだ。
それが同じ世界だという証拠だ。
そうなると、やはり、考えられるのは、半獣人の、この少女の体になったからか。それで、何故、鑑定結果が変わるのだろうか。
いや、そもそも鑑定って何だ?
俺は百科事典アプリみたいな感じだと思っていた。画像検索をして、それに該当する項目から説明文を――結果を表示しているようなものだと思っていた。何かを参照して表示しているのだと思っていた。違うのだろうか?
これは……。
と、その時だった。
俺の頭の上にくっついている耳が何かの音を感知する。何か風を切って飛ぶような……。
「リンゴ!」
「む」
ズタ袋をずらし食事を行っていたリンゴが慌てて盾と斧を持つ。
そして、矢が飛んできた。
幌馬車に矢が刺さる。
リンゴはすぐに幌馬車の方へと走る。飛んでくる矢を盾で防ぐ。
俺もすぐに青銅の槍を手に持ち、構える。
「襲撃なのだ!」
リンゴが叫ぶ。
幌馬車の中から狼少女の声が聞こえる。おっさんの声は聞こえない。
「えーっと、彼女は何と?」
「食事を続けるから倒しておけ、と言っているのだ」
リンゴはちょっと苦笑しているような、何処か苦虫でもかみつぶしているような調子で、そう教えてくれる。
「えーっと、それは」
随分とのんきな……。
「タマちゃん、護衛の仕事なのだ」
はぁ。そうですね。
そして、しばらくして現れたのは武装した集団だった。だが、随分とみすぼらしい。
三、四……六人ほどか。
こんな見晴らしの良い草原の何処に隠れていたのだろうか。山賊? いや、草原だから草原賊? 普通に盗賊か。
身につけているのはあまり上質なものではなさそうだ。手に持っている弓は手製の簡易なもの、短剣、剣なども鉄製のようだが、錆びたり、欠けたり――酷い代物ばかりだ。いや、ここまでボロだと逆に危険かもしれない。破傷風とかさ。
さて、どうしよう。
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