052 成長
せっかく恐怖を乗り越えて魔法を習得したんだ。早速使ってみよう。使い続けることで数値が増えるかもしれないしな。
――[サモンヴァイン]――
まずは草を生やす。いつもの葉っぱが細長く伸びた、いかにもな雑草だ。
――[グロウ]――
次にグロウの魔法を使う。先ほど生やした雑草が成長する。葉がさらに大きく立派なものへと成長する。そして、その葉の中心からは細く長い茎が伸びていた。元の雑草とは別の品種に変わったかのようだ。
一応、鑑定してみるか。
……。
こう、タブレットをかざして一分くらい待つのってさ、何だか、電子レンジの暖め待ちみたいな感じだよな。まぁ、タブレットをかざし続けてないと駄目だから、そこはちょっと怠いよね。
んで、鑑定結果は、と。
名前:千草
品質:低品位
若干の魔素を含んだ雑草。
ああ、これでも雑草なんだ。品質も変わっていないみたいだしさ。って、今回も解説があっさりだな。最初はもっと長く皮肉たっぷりな解説だったような気がするんだけどな。解説を考える人が力尽きたか? って、解説を考える人って誰だよ。この世界の神様とかか。まぁ、長い解説だったのは、あの草原の木に生えていた果実と木の枝だけ、か。どちらも、俺が、今のこの獣人少女の体に変わる前だな。何だか懐かしいよ。
成長した草を引き抜く。草は抵抗なくあっさり引き抜ける。成長しても根の深さは変わらないようだ。
うーむ、根が深くなるようなら、敵の体に草を生やして成長させることで恐ろしいことが出来るかな、と思ったんだけどな。まぁ、そう都合良くはいかないか。
次は味だな。
引き抜いた草を囓ってみる。
……。
ほんのりと甘い。魔素とやらを含んだコトで味が変わったのだろうか。これなら食べられる。いざという時の食用として使えそうだ。
……使えそうか?
魔法は自分の中の活力というか、生きる力を使って発現する。サモンヴァインの魔法はそれほどでもないが、このグロウの魔法になると消費も大きくなるようだ。少し疲労感が残る。
とてもじゃあないが、こんな雑草を一本囓って回復できるとは思えない。空腹を誤魔化そうとして、さらに空腹になる感じだ。本末転倒だよなぁ。
元気な時、元気が有り余っている時に使いまくって保管するという使い方が無難そうだな。
……で、雑草を沢山生やして、保管してどうするんだ?
ま、まぁ、この草が高く売れる可能性だってある。なんたって魔素を含んだ雑草だからな。魔素とやらが何かは良く分からないが、ただの雑草よりは売れる可能性が高いだろう。これは、後で確認だな。
――[サモンヴァイン]――
もう一度、草を生やす。
――[グロウ]――
そして、先ほどと同じように成長させる。
――[シード]――
最後に三つ目の魔法だ。草が種に姿を変える。一瞬にして変わってしまった。不思議な現象だ。さすがは魔法。で、何、これ。
種を鑑定する。
タブレットをかざしてしばらく待つ。うーん、何というか即席めんにお湯を注いで待っている時のような気分だ。まぁ、タブレットをかざして待ち続けないと駄目だから、そこがちょっと不便だけどさ。
んで、鑑定結果は、と。
名前:千種の種
品質:低品位
千種の種。
おーい、解説。解説することすら諦めたのか。そのままじゃあないか。酷すぎる。まぁ、アレだ。このシードの魔法は草花を種に変える魔法のようだ。これ、草花限定なんだろうなぁ。多分、木とかには使えない。
名前から種を飛ばす攻撃魔法かな、と思ったんだが、アテが外れた。何処まで行っても草が生える魔法だ。こんなのどう使えって言うんだよ。地味で微妙すぎる。
――[サモンヴァイン]――
もう一度、草を生やす。
――[シード]――
今度は成長させる前の草を種に変える。種の種類は先ほどと変わらないように見える。まぁ、これも鑑定だ。試すことは重要だからな。
タブレットをかざしてしばらく待つ。いちいち待たないと駄目なのがなぁ。しかも、これ、鑑定対象からタブレットの枠が外れたら、鑑定やり直しになるしさ。とても微妙だ。
んで、鑑定結果は、と。
名前:雑草の種
品質:低品位
雑草の種。
おいおい。だからさ、もう少し鑑定の内容を頑張ろうぜ。そのまんまじゃん。
……。
で、分かったことは。成長させた前と後は違う品種だってコトだ。グロウの魔法は草の品種を変えるようだ。品種が同じなら種にした時に同じものになるはずだもんな。違う品種に成長させる魔法、か。こう、もう少し何とかなれば使い道が出てきそうなのに、微妙に使えないというか。う、うーん。
魔法をもっと上手く扱えるようになれば変わるのだろうか。変わって欲しいなぁ。
俺は二つの種をお金を入れていた袋に突っ込む。
はぁ……。
ため息だ。
って、うん?
そういえば背中に何も無い。リュックサックがないぞ。部屋の中を見回すが、その何処にもリュックサックはなかった。
ま、ま、まさか、あのオークとの戦いで無くなったのか?
ま、マジですか。失ったものが大きすぎる。草紋の槍にはヒビが入り、リュックサックは無くなり、お金も底をついている。それに対して得られたものは、得られたものは――首を横に振る。
得られたのは、リンゴの命、門番の犬頭の命、それに、この町の人たちの何人かの命、か。充分か。充分過ぎるか。俺の正義感を満足させるには充分な結果だろう。だけどさ。それじゃあ、お腹は膨れないんだ。膨れないんだぜ。
感謝という気持ちの結果が欲しいよなぁ。俺も、俺だって生きるのに必死だもの。こう、気持ちというか、ご飯をおごってくれるとか、必要だと思うのです。リンゴはともかくとして、あの犬頭には全財産を――破産するほど奢らせてやる。
楽しみだぜ。くくく。
……。
はぁ、うん。
ホント、つれいわ。
このギルドの部屋に引き籠もっていても仕方ない。外に出よう。それで、あれからどうなったのかを確認しよう。
扉に手をかけ、開ける。
開けた。
……。
その扉の向こうに、それは居た。
居た。
待っていた。
待ち構えていた。
目の部分にだけ穴を開けたズタ袋をかぶった誰か。ゆるめのチュニックに何かの革で作ったと思われるズボンを履いている。そして、その背中には小さな蝙蝠のような翼が生え、蜥蜴のような尻尾もあるズタ袋をかぶった人だ。
えーっと、誰?
誰でしょうか。正直、怖いのですが、誰でしょうか?
そのズタ袋から見えている金色の瞳で見つめられると、凄く怖いです。
「タマちゃん、目覚めたのだな!」
そのズタ袋が喋った。
ん?
って、リンゴじゃん。リンゴさんじゃん。
「えーっと、リンゴ? ですか? その格好は?」
「うむ。戦いで兜と鎧が壊れてしまったのでな。このような姿ですまぬのだ」
……。
あー、翼や尻尾があるから、あんな、中に余裕がありそうなずんぐりな鎧だったのかぁ。そうかぁ。
って、そのズタ袋は何なんだよッ! 殺人鬼みたいじゃあないか。
「あのー、えーっと、リンゴさん。せっかく整った容姿をしているのですから、そのズタ袋は取った方が良いのでは?」
「な、私が、整った? タマちゃんは何を言っているのだ」
目の前のズタ袋がわたわたと手を振っていた。
何、このズタ袋。
「あ、はい。それで、えーっと、あれからどれくらいが経って、どうなったのでしょうか」
このギルドの建物が無事だってことは、あの後、すぐにオークどもは撤退したのだろう。町の被害は大きそうだが、壊滅はしていないはずだ。
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