一章 沈黙の塔攻略

007 俺は生きている

 手元に戻ってきたタブレットを見る。


 そう、戻ってきた。これは以前の俺が持っていたものと同じものだ。間違いない。俺には分かる。


 表示されている文字を見る。夜でも関係ない何故か読める文字だ。まぁ、今は夜目も利く体になったワケだけどさ。



 レベル4

 称号:ノービス・ごっこ勇者

 クラス:無し

 BP:4

 スキル:獣人語0

     剣技0

 魔法:草2

    ・サモンヴァイン0

    ・グロウ0


 レベルが四まで上がっている。多分、あの狼もどきを倒したことによるものだろう。それは良い。それよりも気になるところが増えている。


 まずは称号だ。ノービスという称号が増えている。確か、ノービスって、初心者とか駆け出しって感じだったよな。俺は必死に戦ったのに、それでやっと初心者レベルってことか?


 クラスは増えていないようだ。これが、もしゲームだったらクラスチェンジが出来る施設でもありそうだけど――いや、そもそもクラスがどういうものなのだろうかという問題がある。


 スキルの中に獣人語というものが増えている。多分、今の俺は獣人という種族なのだろう。分かり易く獣の耳が付いているし、尻尾もある。だが、ゼロになっているからか、俺が獣人語を喋ることは出来ないようだ。このスキルのレベルを上げれば獣人語を理解して喋ることが出来るようになるのだろうか。多分、なるんだろうなぁ。


 次にBPだ。BPが四に増えている。これは一レベル上がるごとに一だろうから間違っていない。間違っていないはずだ。

 だが――俺は魔法の項目を見る。


 魔法の項目の草が二に増えている。あの暗闇の中で狼もどきに襲われた時、俺はタブレットを必死に操作した。多分、それで草が二に増えたのだろう。草が二だからか、魔法が二つ増えている。これが草魔法なんだろう。

 サモンヴァインにグロウの二つの魔法、か。


 と、それよりも、だ。魔法は後回しだ。気になるが、後回しだ。


 草に二つBPを振り分けているなら、BPの合計は六になる。そうなると本来ならBPは二じゃないとおかしい。なのに、だ。BPは四、残っている。


 これはあれか? 俺は死んで生まれ変わったから、レベルを一からやり直したとか、そういう感じなのか。この今の俺の体の元々の少女の能力も獣人語くらいしか加わっていない。あんなすぐに倒せる寒天でレベルは上がるんだ。元々のレベルがゼロだったとは思えない。


 ……。


 死ぬ前に振ったBPがボーナスとして死んだ後も引き継がれたような感じなのだろうか。そう考えると、死ぬ前に出来る限りレベルを上げておきたかった気がしてくる。これは、ゲーマーのサガというか……仕方ないだろう? 勿体ないじゃないか。


 ……いや、もちろん、もう一度死ぬのなんてごめんなのだが。あんな痛い思いはしたくない。でも、損した気分になってしまう。上手くやればもっともっとレベルを上げられたはずだ。慎重に行動すればもっと長生きが出来たはずだ。


 ああ、たられば、だ。まだゲームの世界に居るような気分が抜けないのは――駄目だな。あんな目に遭ったのに、な。


 にしても、魔法か。誰もが一度は憧れるよな。


 俺も魔法を使うことには憧れがある。


 でも、草なんだよなぁ。草って何だよ。ゲームだったら、草の属性があるものなんて殆ど無いんじゃないか? あっても植物とか木属性とかだろう。


 草だよ、草!


 これが火なら、攻撃の花形って感じだろうし、土魔法なら便利に建物や壁を創造とか、水魔法で何処でも飲み水を生み出すとか色々と夢が膨らむのにさ。


 草は、なぁ。当たり前のように火に弱いだろうし、どう考えても外れ魔法だよな。


 まぁ、でもさ、魔法を使うことには興味がある。せっかく覚えた魔法だ。使ってみよう。


 ……。

 ……。

 ……。


 えーっと……。


 どうやって使えば良いんだ?


「サモンヴァイン!」

 とりあえず叫んでみる。


 しかし、何も起こらない。


「グロウ!」

 やはり何も起こらない。


 これは、あれか! 魔法はイメージだ、的なヤツだな。


 魔法の発動をイメージする。


 さあ、草魔法よ、発動するのだ!


 ……。


 ……。


 しかし、何も起こらない。


「何故!?」

 俺のイメージ力が足りないのか!


 と、そこでタブレットに表示された文字に気付く。魔法の横にある数字は何だ。そう、ゼロだ。そうだ。ゼロだよなぁ。もしかして、これが一にならないと使えないのか? でも、そうなると魔法を習得するために、属性にBPを振り分けて、さらに覚えた魔法にもBPを振り分けるってことだよな? 二重に必要ってことだ。魔法の習得ってかなり困難じゃないか?


 う、うーむ。


 このレベルとやらがどれだけ上がるか、だよな。レベルが上がりにくく、さらに上限も決まっていたら最悪だ。いや、実際、寒天を倒し続けても殆ど上がっていないことから、上がりにくい気は……するんだよなぁ。


 まぁ、いいさ。この世界で生き続けたら分かることだ。気にしたら負けだ。


 BPを振り分ければすぐにでも分かりそうだが……まぁ、今は必要に迫られていない。温存だ。草以外の魔法を習得する可能性だってある。使えそうなスキルや魔法が手に入った時にBPが使えないのは避けるべきだ。


 温存、温存、と。


 さて、と。ああ、そうだ。せっかくタブレットが戻ってきたんだ。この、さっき手に入れた宝石を鑑定してみよう。


 狼もどきの体から出てきた宝石にタブレットをかざす。しばらくして鑑定結果が表示された。



 名前:グラスウルフの魔石

 品質:中品質

 グラスウルフの魔石。


 ……。


 魔石? あの狼もどきの名前は、もしかしてグラスウルフって名前なのか? 草狼とか草原狼という感じなのか?

 う、うーん。あまり強そうな感じがしない。


 魔石、魔石かぁ。ゲーム的に考えるなら、あの狼もどき、草狼の力が秘められているとかそんな感じだろうか。つまり、あの狼が宝石を食べていた訳じゃなく、草狼の体内で生成されたってことか?


 ……これは持っていこう。何かに使えそうな気がする。いや、必要になるだろう。もし、人里とかがあれば換金とか出来そうな気がする。


 ……。


 ……人が居ないなんてこと、無いよな? この世界に人は俺だけ、なんて無いよな?


 村のような場所だってあったんだ。獣人の黒焦げ死体だって見ている。きっと何処かに人は居るはずだ。


 まずは人の住んでいる場所を目指す。


 でもなぁ、村があったんだよな。そうだ。俺はそこで目覚めた。村があった場所の近くに町なんてあるだろうか? 無いような気がする。


 そうなると、人里を見つけるには、かなりの距離を移動しないと駄目ってことだよなぁ。はぁ、考えただけでうんざりしそうだ。


 まぁ、いいさ。


 戦えるのは分かった。この草原で何とか生き延びていくことは出来そうだ。後はゆっくりでも進むだけだ。


 とりあえず、今日はこのまま休憩して、夜が明けたら仮眠を取ろう。さすがに夜の間、眠るのは危険だ。寝ている間に、あの草狼たちに襲われたら、前世の二の舞だ。


 陽が昇ったら昼まで眠って、それから動く。


 まぁ、頑張ろう。

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