全部君のせい

 関くんと二人でお店に入ると、亜美ちゃんが予約してくれていたらしくすんなり入れた。亜美ちゃんそこまでしてくれるなんて!と感動していたら関くんが


「今度デートで使いたいからどんなだったか教えてって言ってた」


 と言った。さすが亜美ちゃんちゃっかりしてる……。


「どれにしよう。関くん決めた?」

「ううん、まだ」

「うーん……」


 気になるのが二つあるんだよね……。難しい顔で悩んでいたら、関くんがふっと笑う。必死すぎたかなと一人慌てていると、関くんは「とりあえず水飲みなよ」と水をくれた。うん、落ち着いた。


「ははっ、七瀬さんってほんと可愛いよね」

「え?!」

「単純」


 ……それは褒められているのか。


「二つ頼んで半分ずつする?」

「えっ!いいよ!関くん好きなの頼んで!」

「うーん……、じゃあ、一つは次来た時頼めば?」

「え……関くんと?」

「うん、俺と」


 また次も一緒に来てくれるんだなって、そんなことで嬉しくなる。すぐ不安になる私にとって、次の約束があるのが一番嬉しい。


「うん!」


 笑うと関くんも笑ってくれる。こんな幸せがいつまでも続けばいいなって、心の底から思う。関くんの隣にいることが、特別なことだけど当たり前になればいいなって。

 来た料理を美味しい美味しい!と感動しながら食べた。関くんが「これどうやって作ってるんだろう」と研究し始めたけど、関くんが作ると何でも丸焦げになるから意味ないと思う。そこからどうして関くんは料理が出来ないのかという話になって、関くんが「調味料の入れ過ぎだ」と言ったから「いやまず根本的に火加減が」と言うと少し落ち込んでいたので反省した。


「七瀬さんはずっとみやびさんとルームシェアしてたの?」

「うん、社会人になってからね。うち親がすごく厳しくてさ。実家から二時間半かかるのに家から通えって言われて」

「二時間半はキツいね」

「うん。そしたらみやちゃんが親を説得してくれたの。私が一緒に住みますからって」

「へー」

「親はみやちゃんのこと信頼してたからね、渋々OKしてくれた」

「え、じゃあもしかして俺と住んでるってバレたらマズイ?」

「実はね」


 そうだ、親にもバレないようにしないと。まぁ、親がこっちに出てくることは絶対にないから電話とかでボロ出さなければ気付かれないだろうけど。


「そういえばさ、俺出て行くって話してたけど」

「……そういえばしてたね」


 関くんが来た日。確かにそんな話をした。


「出て行ったほうがいい?」


 私の答え知ってるくせに。微笑みながら聞いてくる関くんはズルい。フルフルと首を横に振る。関くんと離れるなんて絶対に嫌。関くんはふっと笑って「分かった」と言った。


「でもちゃんと挨拶行くべきだよね」

「え?」

「ご両親に」


 関くんは真剣な顔になって、私を見つめる。親に、挨拶。てことは少なくとも遊びとかじゃないってこと……だよね?嬉しい。関くんはちゃんと真剣に考えてくれてるんだって。でも……。


「ありがとう。でも、もうちょっと待って」


 うちの親の頭の硬さは尋常じゃない。高校生の時、みやちゃんと喋っていて10分門限を過ぎただけで思いっきり平手打ちされたことを思い出す。一緒に謝りに来てくれたみやちゃんのことも叩こうとしたのは流石に止めたけど。もし関くんと付き合っていることが知られたら無理やりでも別れさせられるに決まってる。


「うん……七瀬さんがそう言うなら」


 関くんは微笑んでくれたけれど、申し訳なくて仕方なかった。

 ご飯が終わると、もしやこのままホテルに……?!と身構えていたけれど全くそんな気配はなかった。またレンタルDVD屋さんに寄って好きなDVDを借りて、コンビニでお酒を買った。風が気持ちよく、ちょうど過ごしやすいこの季節。関くんと手を繋いで歩けるのが嬉しい。一ヶ月前、まさかこんなことになっていると想像だにしていなかった私に言ってあげたい。後少し頑張れば幸せな時間が来るよ、と。

 家に帰ると、順番にお風呂に入った。


「一緒に入る?」


 と関くんは聞いてきて慌てたけれど、すぐにからかわれていることが分かった。


「……関くんって意地悪だよね」

「うん、だってすぐ真っ赤になるの可愛い。さっきも抱きたいって言ったら真っ赤になってたし」


 ……!あれもからかわれてたの……?!ここまでの私の動揺と緊張を返していただきたい。たまには私も関くんの余裕を崩してみたい!……とは思うけど絶対に無理だ。関くんに触るだけで心臓が潰れそうになる。

 私が先にお風呂に入って、関くんが後で入った。お風呂上がり、関くんは面倒臭がって髪の毛を乾かさないから私がやってあげた。ソファーに座る私の膝に、床に座った関くんが気持ちいい、と頭を乗せる。猫みたいで可愛いな、と思いながら柔らかい髪に触れた。

 前みたいにソファーに並んで座って映画を見た。関くんはまたホラー映画を借りていた。前にみやちゃんと一緒に観た映画だったからそこまで怖くはなかったものの、やっぱり大きい音にビクッとなる。関くんは全く動じないからちゃんと起きているかとたまに顔を覗き込むと、ちゃんと起きていた。みやちゃんもだけど、ホラー好きな人ってどうして驚かないんだろう。なんてどうでもいいことを考えている内に映画が終わった。

 私が今日借りてきたのは恋愛もの。でも困ったのは、濃厚なベッドシーンがあったこと。家族で観ると気まずくなるやつだこれ。……そして彼氏と一緒に観るのも、とても気まずい。どんな体勢で今まで座っていたかも分からなくなって、ソワソワする。チラッと関くんを見ると、不意に目が合った。


「なに?」

「う、ううん!何でもない!」


 関くん平気そうだな。もしかして慣れてるのかな。……こうやって勝手に妄想してモヤモヤするのやめたいな。何とか映画に集中しようとしたものの、どうしても出来なかった。


「終わった、……!」


 映画が終わり伸びをした瞬間、手が伸びてきて抱き寄せられ、そのまま唇が触れる。目を見開いて固まっている隙にソファーに押し倒され、手を押さえつけるように握られた。


「もう、触っていい?」

「えっ」

「七瀬さん、舌出して」

「えっ、ええ、ちょ、」


 戸惑っている内に関くんはまた唇を重ね、開いていた口に舌を挿し入れてくる。舌を舐められ、自然と甘い声が漏れる。私はキスをしたのは関くんが初めてで。まだ全然慣れない。特にこんな濃厚なキスは、息をするタイミングも分からないし舌をどうすればいいかも分からない。関くん、さっき舌出してって言ったから出せばいいのかな?頭の中でそんなことをゴチャゴチャ考えている間にも、関くんの手が服の中に入ってくる。更にアワアワと慌て出した時、関くんは唇を離した。


「舌、出してみて」


 あ、出せばいいのか。少しだけ恥ずかしくてちろっと出すと、関くんはその舌を舐めて、吸った。ああ、気持ちいい。頭の中がトロトロになりながら、私は関くんにしがみついた。


「っ、ほんと、これ以上煽らないで」


 関くんは体を起こすと、着ていたTシャツを脱いだ。逞しい上半身にドキドキして心臓が暴れ出す。恥ずかしくて目を逸らせば、「こっち向いて」とお願いされて結局目が合う。切なげに目を細めた関くんは、私を至近距離で真っ直ぐに見つめて言った。


「七瀬さんは、本当にズルい」

「っ、え……」

「可愛くて、ズルい」


 吐息も、視線も、熱くなった体温も、全てが甘い。呼吸ができなくなりそうなほど甘い夜に溺れた。

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