04. みんなで逮捕されよう。

 ≪ ふぁふにる さんがあなたの投稿をお気に入り登録しました ≫

 ……スワイプで通知を消去する。



 ≪ 【カクヨムNews】『この物語が不謹慎!』1位に選ばれたのは!? ≫

 ……スワイプで通知を消去する。



 ≪ ゆい: やっぱり北の改札で!笑 ≫

 ……スワイプで通知を消去する。



 ≪ 【NNK通信】不審ドローンの目撃情報 相次ぐ ≫

 ……スワイプで通知を消去する。



 ≪ 【DRAGON Saga】期間限定!ログインボーナス増量中! ≫

 ……スワイプで通知を消去する。



 大して意識する必要もない、アプリからの通知たち。少女は指先でスマホを操作しながら、時間をつぶしていた。


香織かおり! 待ち合わせ場所こっちだよ!」


 香織かおりと呼ばれた少女が後ろを振り向いた。

 人通りの多い駅前で、友人が手を振っているのが見えた。


「あーごめん、迷っちゃって……」


「もう、さっきメッセージ送ったじゃん!」


「ほんと? ……あ、ごめん。ゆいの通知消してたみたい」


 そう言いながら、香織がスマホを確認すると、たしかにメッセージが来ていた。友人との待ち合わせ場所は、ついさっき変わっていたらしい。

 他の多くの通知と一緒に、うっかり消してしまっていたようだ。


「消すとかあつかい雑くない!?」

「ごめん、ゆい! これからはもう一生消さないから!」

「一生は重いわ~」


 香織はいつものように軽口をたたきながら謝った。ゆいと呼ばれた少女は笑いながら反応した。


「余計なアプリ大量に入れてるからじゃないの?」

「そうかもしれない」


 ピコン、と軽快な通知音がした。

 香織がもう一度スマホを見た。いつ入れたのか覚えがないアプリから通知が来ていた。


 ≪ タップして重要な情報を共有します ≫


 身に覚えのない通知。

 重要な情報とはなんだろうと思いつつ、通知の内容通りタップしてみたが、ただ通知が消えただけで、何も起こらなかった。


 もう一度ピコンと音が鳴った。今度はゆいのスマホだった。


「香織、今なに送ったの?」


「なんのこと?」


 ゆいが画面を見ると、香織からのメッセージが来ていた。

 メッセージの本文には、URLが一行書かれているだけだった。ゆいは疑問を抱きながらも、そのアルファベットと数字の羅列に指先で触れた。


 スマホ内蔵のブラウザが起動し、すぐにポップアップが表示された。

 ポップアップには「タップして重要な情報を共有します」という一文、そして、その下に「OK」とボタンが表示されていた。

 ゆいは、恐る恐る「OK」ボタンを押した。ポップアップが一瞬だけ消えて、すぐまた同じ内容のものが表示された。

 もう一度押すと、やはり一瞬消えて現れるという同じ動きをした。ゆいは怖くなって、スマホから顔を遠ざけた。


 その時、再び香織のスマホに通知が飛んできた。


 ≪ Let's get arrested ! ≫


 香織はこの一文が何を意味しているか理解できなかった――彼女が英語に詳しくないことを差し引いても。

 香織がよく分からない表示に戸惑っていると、周囲の人々が声を上げはじめた。


「おい、あれなんだよ」

「ずっとあそこで飛んでない?」


 香織とゆいが、声のする方を見ると、人々が空を指さしているのに気づいた。

 二人が顔を上に向けると、大きなドローンが何機も飛んでいるのが見えた。

 20階建てのビルよりも少し高いくらいの位置だろうか。ドローンたちは、100メートルほどの等間隔を保ち、人々を上から抑え込むような雰囲気で、中空にとどまっていた。


 二人がなにか異様な空気を察知しはじめたとき、人々のざわめきが一層大きくなりはじめた。


「ねえ何この通知!?」

「変なページ送らないでよ! これ消えないんだけど!?」

「うわああ! 何回押しても出てくる!」

「誰か、救急車呼んでくれませんか!」


 再び、香織のスマホから通知音が発せられた。


 ≪ Let's get arrested ! ≫


 さっきと同じ内容だ。香織には、その通知を押す勇気がもてなかった。

 恐ろしくなって、スマホの画面から目をそらした。


 だが、通知音は止まらず、くり返し鳴り続けた。


 ≪ Let's get arrested ! ≫


 何度も、何度も、


 ≪ Let's get arrested ! ≫


 同じ内容の通知メッセージが、画面に表示されていった。


 ≪ Let's get arrested ! ≫


 ≪ Let's get arrested ! ≫


 ………


 ……


 …

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