第8話
飛行機が爆発し、空港内はパニック状態となっていた。
中にいる人たちは慌て叫びながら出口へと駆け込む。
屋上にいた人たちも必死になって地上へ向かうエレベーターや階段に駆け込んでいた。
そんな中、屋上から鉄沢さんと一緒に連れられた僕はその人混みではなく別のルートを移動していた。
「この道は?」
「一般の方は通れない道です」
「それって……」
「あまりこういうことは言ってはいけないのでしょうけど、守れる命が優先ですから。
それに他に来ている隊員が誘導しているはずなので大丈夫だと思います」
鉄沢さんは走って移動しながらそういう。
先輩たちの飛行機を見送ろうと屋上にいた僕だったが、飛行機が飛び立つ前に大きなミサイルのような物が突然出現して飛行機を破壊した。
それを見た僕は血の気が引いたが、破壊された飛行機から離れた場所で先輩たちを見つけてひとまず心を落ち着かせ、鉄沢さんの誘導に従い避難することにした。
「蒼井さんがいるから大丈夫だと思うのですが……」
鉄沢さんがそう言うと同時にこのルートの出口が見えた。
空港の出入り口近くに繋がっているようだ。
鉄沢さんが両開きの扉の片方を開ける。
その先に広がっていたものは、想像していたものとは違っていた。
割れたガラス片、座席や多くの機械類がボロボロになって破片を床にばらまいている。
「いったい何が……?」
「周りに人がいないみたいですし、避難自体は済んでいるようですが」
僕と鉄沢さんが周りを見渡していると、新たに電光掲示板が落ち、壊れる音が派手に鳴る。
そこにはボロボロとなっている先輩の姿があった。
「先輩!?」
「えっ、真広君?」
僕の声に先輩は振り向く。
だがその時、先輩とは別の誰かがその場に飛び込んできた。
『よそ見してんじゃねぇぞ!!』
聞きなれない言葉を叫びながらそれは拳を先輩に叩き込む。
先輩はなんとか両手を交差させて受け止めるが、その一撃が強烈だったのか僕たちのいるところまで飛ばされてきた。
先輩は舌打ちをしながら前を睨みつける。
「くそ、最悪だ」
「アレって」
「あぁ、この前襲ってきたやつ。
名前はボルスっていうらしい」
『おいおいおいおい、お前の力はそんなもんじゃねーだろ!
この前の破壊力はどうしたぁ!!』
狼男、ボルスは獰猛な笑い声を上げながら床を蹴って飛び掛かってくる。
先輩は僕を庇うように前に出て、両腕から骨を籠手のように纏わせて防御の体勢を取るがそれではきっとボルスの一撃を受け止めきれない。
「先輩!」
僕がそう叫ぶと同時に金属が響く音が大きく反響した。
『あぁん?』
先輩とボルスの間に、隣にいたはずの鉄沢さんが割り込みその攻撃を受け止めていた。
「悪いですが、このお二人は我々がお守りしなくてはならないので」
鉄沢さんはボルスの腕を掴んで引き寄せ、顎に一撃を入れた後、両手を組んで叩きつける。
「お二人は出口へ!ここは私が!」
鉄沢さんは振り向き、急いで逃げるように言う。
「えっ、でも」
『そうやすやすと逃がすかよ』
突如、轟音と共に空港内が再び震える。
そしてボルスがにやりと笑い、片手に握っていた筒のようなものを投げ捨てた。
「まさか、爆弾の起爆スイッチですか?」
「ってことは出口が塞がれたわけだな、くそ」
思わぬ事態に先輩は悪態をつく。
「屋上に向かってください!
今の骨咲さんなら紅君を抱えて飛び降りれます!」
すかさず鉄沢さんがそう言い放つ。
「いくよ真広くん、私たちがいても邪魔になるだけだ」
「……わかりました」
先ほどここに来るまでに通った道を逆走するために戦闘態勢を取る二人に背を向ける。
何もできない僕が出来るのは鉄沢さんの無事を祈るだけだ。
■ ■ ■
獲物が逃げてしまった。
まぁ別に構いやしないさ、追いかける楽しみがあるってもんだ。
オレはククッっと笑い目の前に立つ妙に鉄臭い眼鏡を見る。
ぱっと見、それなりの実力はあるようだ。気迫ってものが多少は感じる。
「いいぜ少し遊んでやるよ。
このボルス様を満足させることが出来るかな」
「残念ですが、そうはいきませんね」
眼鏡をクイっと上げ、その男は構えを調整する。
ボクシングのように両手を前に、足を前後に開いた形だ。
「いきます!」
男は踏み込み、その拳を繰り出してくる。
その時、その拳はガキンという音と共に銀色になり、鉄の臭いが濃くなった。
「体の金属化……じゃなくて鉄か?
それも中身まで変わるヤツ」
俺はその攻撃を右腕で防ぐ。
だが男はそれだけで止まらず、ジャブやストレートを頭や腹に打ち込んでくる。
さらにそこから蹴りも混ぜられてくるときた。
キックボクシングってわけでもねぇな、我流かこれ?
攻撃を出す瞬間にその部位を鉄に変化させ威力を増していく。
「しかしなぁ!!」
オレは防御の構えを解き、振り払うように腕を薙ぐ。
男は後ろに飛び、それを躱す。
「なんだ避けるのか」
「貴方の一撃は恐ろしいですからね
一度思い知らされているので」
「あん?お前と戦ったことあったっけか?」
「覚えていないならそれで構いませんよ」
男は眼鏡をクイっと上げる。
癖なのかあれ?
しかし……しかしだ。
「お前さん持ったいねぇな」
「……何がでしょう」
「その
だからオレは目の前の男に言った。
いくつかレクチャーしてやる、と
「お前の干渉は『身体の鉄化』だな。
身体を鉄に変化させて重さも増すヤツ」
骨っ娘を庇った時やさっきの攻撃から見るに、その重量がだいたい戦車の砲弾ぐらいということがわかる。
普通の奴ならひとたまりもねぇしろもんだ。
「筋肉をしならせ、攻撃時に一部鉄化して威力を上げる。
まぁ間違っちゃいないさ、硬化する干渉がよく使うシンプルな手だ。
だがそれじゃあもったいない」
そう、硬くなるならともかく重量も増やすならもったいない使い方をしている。
「お前さんは防御力にプラスして攻撃、機動力を損なわないためにその締まった体を作り上げてんだろう?
だがそれは間違いだ」
「……それはどういうことでしょうか」
「まぁ、とりあえずさっきみたいに攻撃してみろや。
今度は防御しねぇから」
オレがそういうと男は訝しむ。
「おいおい、せっかくのチャンスだぜ?
ここでオレ様を倒せる数すくねぇチャンスだ」
「……その言葉に乗らないといけない自分に少し腹が立ちますよ」
「安心しな、これはレクチャーだ。
胸を貸してやる……あ、いややっぱ背中だな。
そっちの方がいい」
オレがくるりと振り向き、指でクイッと合図する。
男は飛び掛かり、先ほどのように手足を鉄に変化させる。
オレは全身の筋肉に力を込めた。
自慢じゃねぇが、オレの毛と筋肉が合わさればかなりの強度になる。
少なくとも戦車の砲弾は通さねぇほど。
男はひたすらに攻撃を繰り出す、流石に体の中に少し響くがこんなもんか。
男の額に汗が流れる。疲労している証拠だ。
「もういいか」
「ぐっ!?」
「とまぁこんな感じにだな」
オレは男の拳を受け止め、そのまま話の続きを始める。
「お前の攻撃が効いていないのは第一に『オレの身体が頑丈だから』ってのもある。
だがそれはお前にも言えることだ。それ以上に違うところは」
体重だ。と
「『硬い』+『重い』はそれだけでかなりの防御力が出来上がる。
攻撃を受けて倒れねぇってのは強さだ」
そんで。
「防御に徹し、相手が疲労や攻撃の隙にこちらから一撃を入れる。
まぁ早い話が自分で殴りつけるより、カウンターがいいってわけだ」
オレは男の拳を思いっきり握る。鉄になってはいるがそれだけではオレの握力は負けない。徐々に変形していき、男のくぐもった声が漏れる。
「じゃあしっかり防御しろよ?」
そう言って男を振り上げ地面に叩きつけ、跳ね上がったところに突き刺すように蹴りを入れる。
男は大きくな金属音を響かせ、壁に激突してそのまま埋まった。
感触からして全身を鉄にしたようだ。
まぁあれなら死ぬことは無いな、別に殺してもいいのだがせっかくだしもっと強くなってからだ。
「とりあえずお前さんに必要なのは速さを捨てて身体の質量を増やすことだ。
質量がある分、鉄化したときに身体が重くなって硬い不動の壁になる。
そうだな、この国の
一応、アドバイスをしてみるが身動きをする様子がないから意識はなさそうだな。
さて、それじゃあ獲物を追いかけるとしよう。
「屋上だったな……。
面倒だから天井ぶち破るか」
なぁに、天井はさっきの奴よりは柔らかいさ。
オレは大きく跳躍し、天井を殴りつけた
■ ■ ■
階段を駆け上って屋上フロアに到着し、動く様子のない自動ドアを骨の触手で派手に割って外に出る。
屋上は一部崩れているが、下に比べるとまだ綺麗だ。
「このままフェンス飛び越えるぞ!」
「ちゃんと抱えてくださいよ!」
私は真広君の身体を抱えようと手を伸ばすが、足元が膨れ上がり、爆発した。
「ごっ、がっ!」
前のめりに身体を強く打ちつけながら派手に転がる。
「お、ちょうどいいところに出れたみてーだな」
「いくらなんでも早すぎんだろ……」
何とか受け身を取れた私は下から飛び出てきたヤツを見て思わずひきつった笑顔になる。
「よう、待たせたなっ!」
ボルスはそう言うと力強く踏み込み、気が付いた時には目の前に出現していた。
拳が顔に迫るが、全身を回転させてボルスの顎に掌打を入れる。
「軽いぜ」
だがその攻撃をものともせず、ボルスの膝が直撃。
強烈な痛みと共に後ろに飛ばされる。
その時、背中から手の形をした骨を伸ばし、倒れている真広君の襟を掴んでこちらに引き寄せた。
浮いているうちに真広君を抱え、別の骨を瞬時に生やして下に叩きつけられる前に着地する。
「ほぉー、攻撃を受けたときにボウズを回収とはなかなか器用なことをするじゃねぇか」
「先輩っ」
「めちゃくちゃいてぇ……」
真広君を隣に下ろしながら呟く。
「真広君は後ろに下がっていて」
「大丈夫ですか?」
「全く大丈夫じゃない」
「じゃあ」
「でもあいつもそうやすやすと逃がしてくれそうにないからさ」
ふーっと息を吐きながら真広君の頭を撫でる。
「ちょっと私頑張ってくるから、応援してよ」
「……わかりました。
気を付けてください」
「うん」
真広君からのエールを貰い、ボルスの前に歩き出す。
「話は済んだか?」
「おかげさまで
ずいぶん優しいんだな」
「なに、オレは気に入った相手と気持ちよく戦いたいだけだ。
会話や合体の途中に攻撃するなんて野暮だろ」
「……合体する奴いるのか?」
「そういう干渉もあるってことさ。
つーことで」
ボルスはカカッと笑いながら私を見る。
「第三ラウンドと行こうじゃないか」
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