第6話

 多くの機械に囲まれた暗い部屋。

 パソコンのモニターから出る光だけがその部屋を照らす中で、一人の男がキーボードをカタカタと叩きながらストローを咥えて飲み物を飲んでいた。

 その身をタイツのような服で包み、金属の頭が光を反射する。

 何より特徴的な一つ目モノアイが赤い軌道を描きながらせわしなく動き回り、

 モニターの隅々まで見渡していた。

 その画面には複数の映像や多くのメールが表示されている。

 男の名はブライス。

 身体の8割を改造し、サイボーグといっても差し支えないほどあちこちいじりまわしている。

 そしてレジストでは危険度Sを設定されているほどの犯罪者である。


「はぁ~……」


 ブライスは機械音声に近い声でため息をつき、身体から力をぬいてだらりと椅子にもたれかかる。


「何難しい声出しているんだよ」


 ブライスがしんどそうにしていると、その後ろから狼の顔がヌッと現れる。


「そらおめぇ前の仕事についてだよ」

「あぁ……?

 あぁ、あの骨っ娘か」


 狼男、ボルスはそのことを思い出して上機嫌になった。

 彼にとってとてもいい思い出なのだろう。

 いつも無傷で仕事を終わらせるのだが、今回は珍しく至る所に包帯などの治療が必要な程の怪我を負っている。

 戦いが好きなボルスにとって久しぶりの闘争は己の心を刺激するのだろう。

 

「そういやアレはなんで引かせた?

 せっかく楽しくなりそうだったのによ」

「依頼主がパクられたんだよ

 これで報酬がパァだぜ畜生」


 そう言いながらブライスは飲み物を飲もうとして容器を持つが、中身が空になっていることに気が着くと同時に

 すると後ろにあるゴミ箱から小さな音が聞こえる。


 「しかし本当なんだろうな?」


 ブライスがキーボードのエンターキーを押すとモニターが別の画面を映し出す。

 そこにはあらゆる角度から撮られている沙耶の画像が複数映し出された。


「こいつが途中から覚醒めざめたっつーのは」

「間違いねぇな。

 最初はただの不干渉ノンフィアの匂いだったが、ブチキレた瞬間に完全に匂いが変わりやがった」

「……普通、この歳で干渉になるのはありえねぇはずなんだがな。

 今頃、医者先生とかが頭抱えてそうだぜ」

「そいつはどうでもいい。

 そんなことよりオレはこいつに興味が湧いたぜ。

 どうせ流れた映像を見てどっかから依頼きてんだろ?さっさと受けてもういっぺん殴りに行かせろ」


 ボルスは語りを力強く握り、筋肉が隆起する。

 目がギラギラとして危なげな雰囲気をあたりにまき散らす。

 しかしそれを気にもしないブライスは首を横に振った。


「ダメ」

「はぁぁぁ!?なんでだよ!!」

「確かにアレについての依頼はたくさん来ているがどれも生きて連れてこいって話だ。

 お前、次に会ったら……殺すだろ?」

「はぁ……お前は俺を何だと思ってるんだ?」

「戦闘狂」

「わかってるじゃねぇか」

 ボルスは腕を組んでうんうんと頷き

「もちろん殺す」

 歯をむき出しにして言った。

「やだこの犬畜生ー!!」


 ブライスはここ最近で一番のドヤ顔を見て頭を抱えながら机に突っ伏して叫ぶ。

 その時、ポコンという音と同時に一つのアイコンがモニターに映し出された。

 ズリズリと顔を動かし、ブライスはモニターを見ると「おんっ?」という声を出して身体を起こした。


「どうした?」

「いや、このアドレスに届くのは珍しくてな。ここ数年はこっちに届くことはなかったんだが……」


 そう言ってブライスはアイコンにカーソルを合わせてクリックし、中にあるメールを表示する。

 するとそこにはモニターが埋め尽くされんばかりの文字が表示された。

 そこにあったのは様々な国の文字がいたずらのように並べられており、何の意味もないように見える。


「うおっ、気持ち悪っ」


 それを見たボルスは思わずそんなことを言ってのけ反ってしまう。

 しかしその隣に座っているブライスは逆に覗き込むようにモニターに顔を寄せた。


「ふっ、フハハハハハハハ!!!

 マジかよ!あいつ生きていたのか!」


 しばらくしてブライスは大声で笑い始めた。

 ボルスはブライスの珍しい姿を見て目を丸くする。


「喜べボルス」

「あんっ?」

 ブライスは一つ目モノアイしかない顔でボルスに告げた。

「お前の望みが叶うぜ?」

「……ほう?」

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