第12話 メア
一週間の授業の中で一度だけ歴史学の授業がある。
今回はその一回目の授業である。
1-Aの生徒たちは講義室に集まった。
よくあるひな壇状の階段教室だ。
サラとリッカは隣同士に座る。
「よっ特待生。」
サラのもう一つの隣の席からだ。
ショートでウルフカットのボーイッシュな少女が座っていた。
「えっと。」
「ウチはメア。」
「メア、私はサラ、よろしく。」
「もうその名前を知らないやつはこの学校にはいないよ。」
「私そんなに有名なの・・・。」
「良くも悪くもな。」
メアはケラケラ笑う。
「リッカは中等部の1年の時以来だな。」
「う、うん。そうだね。」
どうやらリッカとも顔見知りのようだ。
「私に話しかけて大丈夫なの?」
メアに問う。
サラはクラスどころか学校のほとんどの生徒に避けられている、というか嘲笑されている。
仲良くするっていうことは、同じく避けられる覚悟がなくてはならない。
「ん?いいんじゃねーの?ウチそういうこと気にしないし。」
陽キャだ・・・。
こういう人間は誰とでも仲良くなれる故に避けられる心配はないか。
サラは心の中でそう思った。
「にしても歴史学、かったりーなぁ。どうせ最初の方は小等部と中等部の頃のおさらいみたいなもんだろうし。」
「歴史学ってスレイヤーの歴史を学ぶんでしょ?」
「うん。」
「私、スレイヤーの歴史興味ある。スレイヤーの知識って[月刊スレイヤー]に書いてあることしか知らないから。」
「へー。そんなんでよくスレイヤーの学校に来れたな。それも特待生で。」
「入学試験に歴史学はなかったから。」
「それもそうだな。ただスレイヤーの歴史ってそんなにいいもんじゃないぞ?」
「えー、いいか悪いかは私が決めるよ。」
それからサラは質問をする。
「ねぇメアもアリス・スールシャールって人のこと知らない?」
メアはうーんと腕を組んで首をかしげる。
「スールシャールは知ってるけど、アリスって人は知らないなぁ」
やっぱりだ。
[月刊スレイヤー]で何度も表紙を飾っているのに知らない。
サラはこの違和感を感じるのは実は初めてではない。
◇
フランカがアリスの記事の切り抜きを捨ててしまったのが原因で起こった、サラとフランカの大喧嘩の後からだ。
[月刊スレイヤー]でアリスの記事が一切載らなくなったのだ。
これまで幾度も表紙を飾り、記事を大々的に取り扱われていたはずなのにだ。
災害復興支援団の記事はあるのに彼女に関する事が一切書かれていない。
そのせいでサラはもう1枚すらアリスの記事を手に入れられなかった。
それだけではない。
小等部と中等部の時にカナエという友達がいた。
カナエとはよく将来の夢の話をした。
アリスという人に命を救われ、いつか自分も彼女のようなスレイヤーになりたいと何度もカナエに話したはずだった。
だがサラとフランカの喧嘩の後くらいに同じ話をしたら
「アリスって誰?」
スレイヤーになりたいと話したことは覚えていた。
だがカナエはアリスに関することを覚えていなかった。
サラは何か別の世界に紛れてしまったような違和感を感じたのだ。
アリスがいなくなった世界に。
いや、そもそも最初からそんな人はいなくて、もしかしたら自分の記憶がおかしくなったのだろうか。
そんなはずはない、たしかにあの時アリスさんに救われたのだ。
ここ、レスレクシオンに来たのはそれを確かめるためでもあった。
彼女に会えるかもしれないから。
災害復興支援団は世界を渡り歩いてるので気軽に会えるものではない。
だからここで手がかりを探さなければ。
◇
講義室に先生が入室する。
歴史学のバートン先生。
オーバーな喋り方をすることで有名な先生だ。
歳はフェゴのノーラ先生よりちょっと若いくらいだろうか。
「みな、静粛に。これより歴史学の授業を始める。心して聞くように。」
バートン先生は語り始めた。
SLAYER-スレイヤー- KUJO @shirokumaKUJO
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