第二章

第10話 サリーナス

脚注


トロンコ

スレイヤーの持つ木の棒

魔法使いでいう箒と杖を兼用したもの。


ラマ

スレイヤーのまとうローブ。


◇◇◇


「うわ~~綺麗な町並み!」


「サ、サラの国はこんな感じの所ないの・・・?」


「全然、全然。私が住んでたところなんて特にド田舎だったし。」


「そ、そうなんだ・・・。」


サラとリッカはサリーナスという町に来ていた。

レスレクシオンの北にある千年樹のふもとの町。


この国には5つの町がある。

サラが入国した西の港町、東の港町、ベルナール高校がある湖の少し離れた所にある町、国の中央にある町、そしてここ、サリーナス。

それぞれ通称、西町、東町、南町、中央町、北町と呼ばれる。


特にこの北町は色とりどりの石畳が舗装ほそうされ、多種多様な石積みの壁が並ぶ小洒落た町だ。


サラは上を見上げる。


「でっっっっっっっっっっかい!」


「そ、そうだね。」


間近で見るその大きさに驚嘆きょうたんする。

雄大にそびえ立つそれは、全長2500m、幹の太さは直径400mにのぼろうかという巨木。

この国の象徴、千年樹。


「千年樹さーん!どうしてそんなに大きくなっちゃったんですかー?」


「?」


「さて、トロンコとラマ!探すぞ!」


「う、うん。」


入学式から翌日、日曜なので学校は休みだ。


サラはトロンコとラマを買い求め、この町に来ていた。

リッカは付き添いである。


「どこを探したらいいかなー?」


「こ、この町にはスレイヤーの装備のお店いっぱいあるから・・・。わ、私がよく行くお店、回ってみる・・・?」


「うむうむ!そうしよう!」


リッカに案内され町を歩く。

大通り沿いの大きな店に入る。

店内はズラッとトロンコが並んでいた。

サラは早速目をらんらんとさせて物色に入るのだが、


「うわー!どれがいいかな~。ゲッ」


値段を見て絶句する。


(リッカリッカ!ちょっとこの店高すぎない!?)


店主に聞かれないようにリッカに耳打ちする。


「え、え、こんなもんじゃないかなぁ・・・。」


並んでいるのはどれも40万ディネロや50万ディネロはする。

最安値で25万ディネロだ。


「こんなに持ち合わせないんだけど・・・」


「よ、予算はどれくらいなの・・・?」


「トロンコとラマを合わせて10万ディネロ・・・」


「じゅ、じゅ・・・?」


リッカは困った顔をする。


「う、うーん、それじゃ中古屋回ってみる・・・?」


「中古かぁ・・・本当は新品がいいけど、しょうがないか。」


中古屋を回っている道中。


「どーしてこんなに高いのぉ?」


「う、うーんやっぱり素材かなぁ・・・。トロンコって千年樹を削って作られるから・・・。」


「え、削って大丈夫なの?」


「う、うん・・・。千年樹もちゃんと再生するから・・・。ただ再生力を考慮して、毎年削られる量は決まってるの・・・。」


「そーなんだぁ。じゃあラマは?」


「ラ、ラマは千年樹の葉をかいこに食べさせて、蚕が吐き出すきぬで作られるの・・・。これも葉の再生を考えて毎年作られる量は決まってる・・・。」


「そーなんだぁ。」


スレイヤーはトロンコがなくとも一応テクニカは使える。

だがトロンコはスレイヤーの理力を最大限に引き出してくれるアイテムだ。

あるとないのではテクニカの威力も泥雲の差なのだ。


ラマは耐久性が非常に高く、防火・防水・耐電にも優れるローブだ。


2つともスレイヤーの基本的な装備だ。

ここらへんの知識はサラにもある。

全て[月刊スレイヤー]で学んだことだった。


2人は大通りの横丁にあった小さな店の前に来ていた。

看板を見ると新品も中古も取り扱ってる店のようで、さらには装備のメンテナンスも請け負っているようだ。


「小さいけど、入ってみるかー。」


「う、うん。」


カランカランと鈴の音を響かせる。


「いらっしゃーい。」


恰幅かっぷくの良いおじさんが挨拶する。


「あのー、おじさん、中古のトロンコとラマを探してるんだけど。」


「お、おじさん・・・?僕まだ19歳なんだけど・・・。」


おじさん、じゃなくてお兄さんは苦笑いをする。


「え・・・ごめんなさい!」


サラは素直に謝る。


「あはははは、気にしないで。トロンコとラマの中古だね。そこに置いてるよ。」


と、お兄さんは店の隅を指差し、サラはふむふむと品定めを始める。


しばらくするとカランカラン。

店に入ってきたのはルーシー・ハーグリーヴスだった。


「あ、ルーシーじゃん!やっほー!」


「・・・。」


サラは手を上げて挨拶したが、ルーシーは一瞥いちべつをくれると無言でカウンターのほうへ向かった。


「やぁルーシー、トロンコのメンテ、終わってるよ。それと入学おめでとう。」


店のお兄さんは後ろのカウンターからトロンコを取り出す。


「ありがとうございます。」


それから2人は天気がどうやら学校がどうやら閑談かんだんを始める。


サラは上げた手の行き場を無くしていた。

そのままリッカの方を向く。


「ヤァリッカ、キョウハイイテンキダネ。」


「そ、そうだね・・・。」


はぁ・・・とサラはため息を吐きながら中古品の物色に戻る。


「それじゃ、またねルーシー。」


「えぇ。またですわ。」


ルーシーと店のお兄さんの閑談が終わったようで、ルーシーはトロンコを受け取り店の出入り口へ向かう。


チラりとサラの方を見る。

サラはあれでもないこれでもないとブツブツ言いながらトロンコをあさっている。

出入り口の扉の取手を掴む。

・・・留まる。

サラの方へツカツカと歩いていくと、


「予算は?」


問う。


「え、ええっと、10万ディネロ・・・。」


突然の質問にまごつきながらサラは答える。

するとルーシーはざっとトロンコとラマを見渡し、


「これ、とこれ」


「トロンコとラマを1つずつ指さした。


「あの、えっと」


サラは何か言葉を探したが、それが出てくる前にルーシーはきびすを返し、何も言わず店を後にした。

カランカランという音が店に響く。


サラはルーシーの指差した2つの商品を持つ。

トロンコ6万ディネロ、ラマ4万ディネロ。

リッカが覗き込む。


「あ、このトロンコ・・・。」


「ん?」


「よ、汚れで見えなかったけど、よく見るとワトフォード社の刻印がある・・・。」


「すごいの?」


「う、うん、老舗しにせのいいブランドだよ。それにこの刻印の型は千年樹の内部の部位を使われてるやつ・・・。中古でも破格だと思う・・・。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る