第9話 リッカ

「むぅうううううううう」


サラは不機嫌そうにうなっていた。


寄宿舎の3階3号室、サラはその部屋に割り当てられた。

ベッドの上で枕に顎を乗せて寝転がっていた。

入学式とホームルーム後のことである。


なんでみんなアリスさんのこと知らないんだ?

[月刊スレイヤー]の表紙も何度も飾ってるのに。


不機嫌とういうか不満げな理由はそれだった。


ふと視線を感じる。

視線の先を見ると目が合う。

目が合うとその子はあたふたして本に視線をやる。

バフっとサラは顔を枕に沈める。


しばらくしてサッとさっきの方を見る。

目が合うとまたその子はあたふたして本に視線をやる。

それを何度か繰り返す。


「そんなにオルディが珍しい?」


サラは話しかけてみた。


「あ・・・う、うん初のオルディの生徒って噂になってたから・・・。」


その子の顔はサラの方を向けているが、視線は泳いでいる。


栗毛色で、前髪を目が隠れるほど伸ばした小柄な少女だった。

2人部屋のルームメイトである。


「えーっと、名前はなんだっけ?」


「わ、私はリッカ、リッカ・スコールズ・・・」


「リッカ!いい名前!私はサラ、サラ・スターリング!」


「う、うん知ってる。自己紹介の時、すごく印象に残ってたから・・・」


リッカも同じクラスだ。


たははとサラは頭をかく。


「そ、その、ありがとう・・・」


「?」


「名前褒められたの初めてだったから・・・」


少女の視点は相変わらず定まらない。


「あー私思ったことすぐ口に出ちゃうから・・・。ところでさ、リッカもアリス・スールシャールって人、知らない?」


「う、うん聞いたことないなぁ・・・。ただスールシャール家って言ったらこの国の名家だよ・・・。」


[月刊スレイヤー]にもいいところ出のお嬢様っていうのは書いてあった。


「何度か[月刊スレイヤー]の表紙にもなった人なんだけど。」


「お、おかしいなぁ。表紙を飾るくらいならみんな知っててもおかしくないはずなんだけど・・・。」


「うーん、なんでだろう」


サラは首をかしげる。

するとリッカが


「そ、その、すごいね。特待生なんだよね・・・?」


「特待生ってそんなにすごかったりするの?」


サラは逆に質問をする。


「う、うん、毎年1人いるかいないかだし・・・今回も3年ぶりの特待生だったから・・・それも2人も・・・」


「そうだったんだ・・・」


よく特待生になれたな、私・・・。


内心冷や汗をかいた。


「ど、どうやったの・・・?」


「うーん、どうって言われてもなぁ。ただ勉強しただけだよ。」


「えっと、テクニカは使えるの?」


「今は使えない。」


サラはきっぱりと言った。


「え、じゃ、じゃあ筆記だけで特待生になったの・・・?」


「多分そうなのかなぁ?試験の時、テクニカ1つも出来なかったから。」


リッカは驚愕きょうがくしていた。

この学校の入学試験はテクニカの実技と筆記が行われる。

配分は実技50点、筆記50点。

特待生になるためには合計50点以上を取らなくてはならない。


一見簡単そうに見えるがそうじゃない。

実技は平均10点もない。

筆記に関しては5点もないのだ。

実技は5種のテクニカの素養を厳しくかつ細かく査定される。


それはまだしも。

筆記は主に科学と物理学なのだが、熟練の科学者が、老練の物理学者が、頭をひねるような超難問ばかりなのだ。

小等部と中等部を卒業しただけの少女の学力では、到底飛べるようなハードルではない。

ただの学校側のふるい落としだ。


だがそれをサラはやってのけたのだ。

つまり実技0点、筆記50点、計50点で特待生というわけだ。


「私、どうしても特待生じゃないとだめだったから。」


サラはあぐらをかき、枕を抱く。


「この学校って授業料って1年間で300万ディネロでしょ?3年間で900万ディネロもするもん。特待生になったらこれぜーんぶタダだよ。」


そう、サラにはそんなお金がなかった。

フランカにそんなお金を無心することなんて到底できなかった。

だから合格を言い渡されたとしても、特待生でなければサラは辞退していた。


元来勉強嫌いなサラだったが、特待生になるために寝る間を惜しんで必死で勉強した。

彼女をここまで駆り立てるのは言うまでもなく、夢のためだ。

彼女は本気マジなのだ。


「あ!」


サラの突然の発声にリッカはビクッとする。


「6時回ったよ!ご飯行こ!」


サラは不機嫌だったことを忘れていた。

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