第6話 湖畔にて

脚注


レスレクシオン

スレイヤー達の住む島。


アンノブル

レスレクシオンの民。女性だけを指すときはスレイヤー、男性を含めるとアンノブルと呼ぶ。


オルディ

アンノブルがアンノブル以外を指すときの俗称。ハ○ポタでいうマグルみたいなもの。


テクニカ

スレイヤーが操る魔法。


◇◇◇


タクシーは島の南側にある湖までやってきた。

湖の周りはほとんど木々が生い茂り、森になっているため一部切り開いてる南側のほとりに車を止める。


「おじさん、ありがとう!」


「あぁ、おじさんが出来るのはここまでだから後は自分でなんとかするんだぞ」


分かった、とサラは車から飛び出る。


おじさんによるとなんでも千年樹のお告げにより、3日前に入学式が1日早まることが決定したらしい。


出発した日じゃん。

迷惑な。

移動中のサラにそんな情報が入るわけがなかった。


湖を見渡す。

ベルナール高校はこの湖の真ん中にある孤島にあるのだという。

船着き場のようなものは見あたらない。


「えーと、どうやって行くんだこれ・・・」


湖のはるか先には確かに陸と建造物のようなものが確認出来る。

だがそこまでたどり着ける術がない。


足踏みをしているとふと上空を何かが通過しているのに気づく。

ローブをまとったスレイヤーたちだった。

そうか、スレイヤーの学校なのだ。

空を飛んで孤島まで行くんだ。

確かにそのスレイヤーたちは孤島を目指していた。


その中の2人組らしきスレイヤーに大声で呼びかける。


「おーーーーい!ちょっとそこのお二人さーーーーん!」


こちらに気づいたようで降りてくる。


「ちょっと何よ、急いでるんだけど?」


2人はムスっとした表情を向ける。


「えーと、ベルナール高校に行くんだよね?私も乗せていってくれない?」


2人ははぁ?という顔を作る。


「あなたも入学生なの?」


1人が尋ねる。


「うん。でもまだ空を飛べないから・・・お願い!!」


サラは手を合わせて嘆願たんがんする。

2人は顔を見合わせた。


「あなたがもしかして今年入学してくるって噂のオルディ?」


サラはきょとんとする。


「ぷっ」


「「あっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」」


2人は笑いだした。


「そーか、あんたがそうなんだ。」


「ありえないよねー。ぷふふふ」


どうも歓迎された笑いではないのはサラにも理解出来る。


「オルディが何しにこの学校に来るのよ。」


「決まってるよ。立派なスレイヤーになるため」


サラは毅然きぜんと答えた。


「オルディのあんたがぁ?」


「「あっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」」


なんだこいつら。

サラはカチンときたが、下でに出るしかなかった。


「あははは、それで・・・お願い!ベルナール高校まで乗せていって!」


再び手を合わせる。


「嫌に決まってるじゃない。」


「泳いで来たらぁ~?」


また2人は笑い出す。

そのまま2人は杖に跨がり行ってしまった。


「んもおおおなんだあいつら!」


悪態をついている場合ではない。

気を取り直して再び上空を飛ぶスレイヤーに声をかける。

声に気づいた3人組が降りてくる。


「何ですか?」


「お願い!ベルナール学校まで乗せていって欲しいんだけど!」


3人組はきょとんとする。


「あなたもしかして噂の新入生のオルディ?」


1人が尋ねる。


「えーと、そうなのかなぁ?」


クスクス、ぶぷふふふ、くくくく。

まただ。

ニヤニヤ笑いながら、


「ここはオルディの来る所じゃないわよ」


「やめなよ~きっと重度の方向音痴なのよ」


「「「あっはっはっはっはっは!!!」」」


そのまま3人は行ってしまう。

んぎぎぎぎぎぎぎ!


それから何度かこの問答を繰り返した。


呼び止めるもサラが今年入学するオルディと分かるや否やあざけ、嘲笑ちょうしょうし、乗せて行ってくれるスレイヤーはいなかった。


「んんんんんなんなんだあいつら~~~~~!!」


サラは湖に向かって叫んでいた。

オルディだったら何だって言うのよ。

ちょっとはアリスさんのようなスレイヤーを見習いなさいよ。


上空を見てももう通過していくスレイヤーはいない。

どうしよう・・・このままじゃ入学式に間に合わない・・・。


はぁはぁと肩を上下にしていると、キキーッと車のブレーキ音が聞こえた。

振り返ると黒塗りの高級そうな車が止まっている。

運転席から初老の執事の格好をした男が出てくると、後ろの席のドアを開けた。


「お嬢様、湖前に到着いたしました。」


「ええ、ごくろうですわ。」


ローブをまとった少女が車から降りてくる。

うわー綺麗な人だなぁ、とサラは思った。

ソバージュがかった長い綺麗な金髪をしたその少女は、非常に目鼻立ちも整っており、同じ女であるサラでさえ見惚れてしまうほどだった。


「まったく、お姉様のお呼び出しのせいですっかり遅くなってしまいましたわ。」


「申し訳ございません。」


「ヒューズが謝ることではありませんわ。」


ヒューズと呼ばれた執事は軽く頭を下げる。


「では行ってきますわ。」


「行ってらっしゃいませ。」


執事は胸に手を当て今度は大きく頭を下げる。


少女は手に大きな杖を持っている。

彼女もスレイヤーだということがうかがえる。

サラに気づき、チラリと見るがすぐに視線を湖の方へ戻す。

少女が杖に横乗りになり空に浮かびだそうとした瞬間だった。


「・・・なんですの?」


サラの方を向き言う。


サラは少女の杖の後ろを掴んでいた。


「ベルナール高校に行くんだよね?お願い!乗せていってくれない?」


「はぁ?」


「私まだ飛べないんだ・・・だから・・・」


「あなたもしかして」


サラの顔をまじまじと見つめながら問う。


「今年入学すると噂のオルディですの?」


「う・・・多分そう・・・」


この人も私を嘲笑するのだろうか。

サラは身構えた。


「そう・・・構いませんわ。」


「え!?」


素っ頓狂な声を上げ、驚いた声で聞き直す。


「いいの?」。


「ほら、乗りませんの?」


「乗る乗る!ありがと~」


「飛ばしますわよ。」


サラを乗せると大きな杖は高度を上げ、凄まじいスピードで飛び出していった。

サラがスレイヤーの飛行に乗せてもらうのはこれで2度目だ。

名前も知らないスレイヤーの優しさに触れ、サラはこう考えていた。

うわ~、ですわ口調の人はじめて見たよ。

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