第一章

第2話 サラとフランカ

脚注


エスクラペス国

サラとフランカが住む国。


◇◇◇


「ふぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


サラは奇妙きみょうな掛け声と共にドタバタと階段をかけ下る。


「はっ!」


残り5段のとこで勢いよくジャンプする。

ドン!という大きな音が家中に響いた。

するとその音に負けないくらい大きく、


「こらー!」


という声がまた家中に響く。


「サラ!またあんたは!出発の日くらい慎ましく出来んのかね!」


台所からのフランカの声だった。


「最後の日でもイメトレは大事なの!ってこの匂いは・・・もしかしてサムサ!?」


サムサとはラム肉を使ったミートパイ、サラの大好物だ。


「なぁにがイメトレだい。イメージじゃなくて現実を見な!たく、とっととこれ食って行っておいで!」


「うへへ~フランカさん分かってるぅ~」


サラが席につくとフランカはふくよかな手で器用にサムサを取り分ける。

サラはミルクを流しこみながらもくもくと口に入れていく。


「ごっそさ~ん」


あっという間に食べ終わると、玄関のそばに置いておいた中身をギュウギュウに詰め込んだリュックを背負いそのまま外に出た。

大荷物のトランクケースの方はすでに事前に寄宿舎のほうに郵送している。

リュックの中は2日分の着替えとお金とパスポートとその他小物類だ。


「それじゃあフランカさん、行ってくるね」


「あぁ、行っておいで」


フランカもそう言いながら見送りに外に出る。

ふんすふんすと鼻息を荒げながらサラは小さな丘の上にある家を下っていく。



サラとフランカの関係は他人だった。


フランカは26歳の時に4つ上の旦那と結婚した。

旦那と死に別れたのがその5年後だった。

子供もいなかったフランカはそれから1人で暮らしていた。


サラとサラの母が家の隣に引っ越してきたのはフランカが45歳の時だった。

人懐っこいサラはすぐにフランカに親のように甘えた。

フランカもサラを自分の娘のように感じた。

気づけばフランカとサラと母親は家族同然のように暮らしていた。


だが2年後、サラが小等部に入学してから間もないある日の夜、サラの母親は突然フランカの家に訪れると、


「どうか娘をよろしくお願いします。」


そう言いいくばくかのお金を無理やり持たせると、制止もきかずどこかへ行ってしまい、二度と帰ってこなかった。


それからはフランカが母親の代わりを務めた。

家は別々だったが、2人は慎ましくも共に暮らしていた。


台風による災害が起こったのはさらにその2年後だった。

2人の家のみならずほとんどの家が濁流に飲まれ無残な残骸を残していた。

町を出ていく人も多くフランカも引っ越しを考えたが、母親を待つサラを1人にすることも出来ず、2人は町の丘の上に住居を構えた。


2人の生活は再スタートした。

フランカはサラに炊事洗濯家事、世渡り方法、豆知識、町長が今狙ってる女、3件隣の家で飼ってるロバの名前、あることないこと、様々なことを教え叩き込んだ。

時には喧嘩をし、時には励まし合い、支え合ってきたのだった。


それから7年後、サラ15歳、今に至る。



サラが丘を降り平坦な道を進んでいく様子を、フランカはじっと見守っていた。

突如サラは振り返り大声で叫んだ。


「フランカさ~ん!私、絶対大物スレイヤーになって!フランカさんに恩返しするから!それまで絶対元気でいてね~~~~!!!」


フランカは小さく手を振った。


「あーあ騒がしいのが行っちまったねぇ...少し寂しくなるじゃないか。」


ここ、エスクラペス国は本日、全国的に快晴、春の陽気に包まれいていた。

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