第4話

『こんばんは。〝魔女システム〟です。


 おめでとうございます。無事に〝調査書〟を時間内に見つけられたようですね。それと、和泉さんを責めないでください。彼女は私の情報について何も知っていないはずですし、仮に協力者が必要だったとしても、そこのポンコツを使うリスクを考えていただければその線がいかに薄いかお分り頂けることでしょう。


 さて、余談はここまでにして本題に入りたいと思います。魔女のお仕事についてです。


 明日の放課後、屋上に〝依頼者〟が現れます。その依頼を聞いて然るべき〝罰〟を考えて、調査書に記入していただきます。

また、調査書には依頼者や対象者の個人情報が載っています。見ることが出来るのは魔女のみとなっているので、調査書というより魔法の本みたいなものです。


 その際に注意していただくことを以下のように定めました。


【一つ、〝罰〟を依頼されてから、2週間以内にその是非を決め、然るべき〝罰〟を与えること

 一つ、正当な罰を下すこと

 一つ、下された罰は〝魔女システム〟が執行役を務め、速やかに執行される

 一つ、依頼者の記憶は依頼達成後、魔女に関する記憶が削除される

 一つ、依頼達成が3件に達した時点で、魔女の資格を返上する権利を得る


 また、裁定者である〝魔女〟が正当性を欠く罰を定めた場合。また、上記に背くような行為をした場合、〝魔女〟自身に罰が与えられる。


 以上を〝魔女規約〟とする。】



 では、健闘を祈っております。』



 開いたファイルの中にあった手書きのルーズリーフには〝魔女システム〟からのメッセージが書いてあった。読み終えた後、そっと閉じた後、重々しい空気とともに沈黙がその場を支配した。僕はその間、考える時を与えられた。

〝魔女システム〟なる存在の大きさと〝魔女〟たる存在が何を行うものなのか、その謎は解明された。だが、やはり全容は計り知れない。仮にも神のごとき力を自称する〝魔女システム〟が、なぜ罰を決めるのを人間に任せているのか。〝魔女システム〟のつかみ所のない謎が、僕達を混乱に陥れていた。


 ここで、真面目な面持ちで栗花落先輩が言った。


「この魔女、相当、和泉さんをバカにしているわね」

「まずそこなの!?た、たしかに私の扱い酷かったけどぉ!!」

 張り詰めかけていた空気を切り落とすには、彼女以上の適任者はいない。

「先輩、まずは確かめてみたらどうですか?」

 第1のお仕事とやらは達せられ、周りの人にも栗花落先輩が見えているはずだ。先輩はすぐそこに居た店員に声をかけた。

「すみません、追加注文よろしいでしょうか?」

「は、はい。何になさいますか?」

 店員の反応に一瞬戸惑いがあったのは、彼女の横に積み上がる食べ終わった皿の量のせいだ。このほとんどを先輩だ平らげている。この上まだ食べると言うのだ。パスタに、ステーキに、ケーキまで頼んでいる。こんなに華奢な体をしてその栄養はどこに消えているんだろうか。、、、胸もないし。

「あら、有仁くん。失礼なことを考えたわね。明日がいらないの?」

 笑顔が怖い。思わず首元に手をやり、繋がっているか確認してしまった。

「ま、よかったじゃない。あたしのおかげね。感謝しなさい栗花落柊!」

 こちらのバカは頭への栄養が胸部へと注ぎ込まれているのは明白だ。

「あら、和泉さん。あなた、私に憧れていたのではなくて?そんな憧れの人にタメ口はないんじゃない?」

「も、もーーー!調子に乗って!そうだ、もう忘れたわ!だって、あたしバカだもん」

 言っていて悲しくないのだろうか。言い負かせてやったと言わんばかりにドヤ顔する來実に、同情の視線が集まる。

「まぁ、あいつはいいとして。問題は〝魔女規約〟や明日の依頼者についてです」

「あんた、どうするのよ」

「依頼者に会うわ」

 そう言った栗花落先輩の顔に迷いは見られない。今回の一件、最初から最後まで〝魔女システム〟の掌の上であった。様子を見るためにも一度依頼をこなしてみるつもりなのだろう。

「じゃあ、僕達も手伝いますよ」

「ま、当然よね」

「貴方達はこれ以上関わらない方がいいわ。システムは冗談じゃないのよ」

 もちろん危険なのは理解している。

「だけど、僕にはどうしても理解できないんです。あれだけの力がありながら、何故自らの意思で罰を決めないのか。それに、、、」

 和泉來実がメッセンジャー敵な役割を与えられていたならば、僕は一体、何な役割を与えられて彼女を見ることができていたのか。

「それに、、、何よ」

「あ、いえ、、、先輩が心配ですし」

「あ〜ナニナニ〜有仁、あんた栗花落柊に惚れたのぉ?やーめときなさいな、この女、暴力的だし、性格きついし、胸ないし、ぃだだだだダダダ」

「ま、まぁ。個人的に無関係じゃない気がするってのが大きいです」

「そう、わかったわ。明日の放課後、5時でいいかしら」

「わかりました」

「もぉ、わ、わかったわよ」

 來実は赤くなった耳をさすりながら答えた。

「失礼します〜。ご注文のガーリックステーキと和風パスタの方をお持ち致しました」

 栗花落先輩が注文した料理を食べ終わるのを待って、その日は御開きとなった。

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