ジャイアンのヒステリー

「買ったばかりのバットの、なぐりぐあいをためさせろ。」

「これだけあれば、世界をせいふくできるかもな・・・・・・。」

「おれがこの手で皮をはいでやる。」


 名作『ドラえもん』の、ジャイアンの暴言には事欠かない。ジャイアンの暴言をリストアップしたトランプまで発売されているという。上の発言だけでも、一歩間違えれば異常者並の暴言だ。しかし、これにもある種の理屈はつけられる。

 確か、赤坂真理さんの『愛と暴力の戦後とその後』という本の中で触れられていたと思うが、あのジャイアンの言行は、「」だという仮説だ。

 昔の子どもたちの遊び場では、必ずと言って良いほどに、ガキ大将が幅を利かせていた。子どもたちは、ガキ大将が統率する、その場の遊びやコミュニケーションを通して、人と人の「間合い」や「付き合い方」を覚える。

 しかし、高度経済成長を迎えると、都心部では特に、子どもたちの遊び場が開発などによってどんどん減少する。遊び場が無くなることは、ガキ大将にとっては自らのアイデンティティに関わる死活問題だ。

 遊び場を無くしたガキ大将は、往々にして自らの存在意義を、ヒステリックに、無意味な暴力によって証明しようとする。ジャイアンというキャラクターは、その時代に増え続けていた、「行き場を失ったガキ大将」たちの、いわば象徴的存在として産み出されたのだ。こんな感じだが、あまりに面白すぎる仮説だと思う。

 

 その後、テレビゲームなどが発達すると、遊び場はそのほとんどが「私的」な空間と化し、「公的」な空間としての遊び場は幻のようになってしまう。子どもたちは、人との「付き合い方」や「間合いの取り方」を学びにくくなり、それと同時に、昔懐かしきガキ大将は、絶望的なほどに行き場を失ってしまった。

 それでも、テレビの中のジャイアンは、これからもガキ大将であり続けるのだろう。時に頼もしく、時にヒステリーを起こしながら。

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