第25話はじめてのワークショップ

日没の吉祥寺の東急のスタバの前を通り

モモは絵本プロダクショントミーファアイルを探すために

地図を見ていた。

「えーっと。そこの葡萄屋さんの路地を入るのかな・・・。」

薄暗い道だった。けれど小さな居酒屋が何件かあったり

洒落たアイス屋さんもある。

少し行くと古びた蔦だらけの壁のマンションがあった。

地図にはその202号室がプロダクションだと記されていた。


モモは緊張しながらマンションの階段を登った。


「ここかぁ。」

トントン。モモの緊張は最高潮に達した。

「はい。入って。」

オーナーの津田さんの声がする。

ガチャ・・・


床には絵本や本が山積みで。本。本。本だらけだ。

注意して歩かなくては本の山達が崩れてしまいそうだ。


「こっち。こっち。」

奥から津田さんの声がする。


モモは本の山達をスルリと避けながら

津田さんの声のする方へ奥に進んだ。


するとそこには三方が本棚で囲まれていて

大きな机のある空間があった。


そこに津田さんと女性三人が大きな机を囲むように座っていた。


「こんばんは。」

モモはポツリと言った。


「はじめましてー!!」

三人の女性が言った。


「まずは、自己紹介か。」

津田さんは言った。


「じゃあ。まずは、私から!リって言います。韓国から絵本の

 修行に来ました!普段はIT関係の仕事してます!38歳です!」

彼女は小柄でボブだった。


「次は私かな?栗田と言います。普段は主婦してます。30歳です。」

ほんわりした彼女は小太りだがヘアーアレンジをしたり服もお洒落だ。


「最後は私!ミキって言います!普段は児童館で働いています!26歳です!」

彼女は顔が小さくてスラっとしていて可愛いい。


モモも皆のように元気よく自己紹介した。

「モモって言います!普段は喫茶店で働いてます!30歳です!」

よしよし。うまくいったはず!モモは思った。


リさんが

「モモさん!絵を見せて!」と言った。

「はい。」

モモは自分のポートフォリオを机の上に置いた。

「わぁ。かわいい。クマとウサギとキリンとパンダの絵いいわね!」

リさんが言った。

「私も思った!!かわいい!!」

栗田さんもつづく。

「私も!!私も!!」

ミキちゃんもだ。



「軽々しく可愛いなんて言うんじゃないよ。あなたたちはもう。

 さてと、怪盗佐々木詩乃子の買ってきた白ワインでも飲もうかな。」

「ごめんなさーい。津田さんは白ワインばっか飲んでるから太るんだよ。笑」

皆ふざけていた。


「このワークショップは全10回。モモさんは途中参加であと7回。

 二週間ごとに開催されて。

 絵本の下書きのラフを毎回描いてきてもらう。


 ラフとは、コピー用紙に描いてもらって

 全部で16見開き。自分で軽く閉じて製本してもらったもののことを言う。


 それをここで皆で見てコメント言い合う。それが私のワークショップだ。

 今日はモモさんは見学と言ったところだ。」津田さんはモモに教えた。

「はい。」モモはこたえた。


モモは皆のやりとりを見ていた。

リさんはするどい意見を言い。

栗田さんはほのぼの相手の才能を誉め。

ミキちゃんは皆の作品に入り込み楽しんでいた。

それをふんふんと津田さんが白ワインを飲みながら見ていた。


気づけば夜の9時半になっていた。

「さぁ。おしまい。」と津田さんが告げる。


リさんが言った。

「あーあ。私は早く絵本を商業出版したい。そのために日本に来たのにー。」

皆笑った。


そして、絵本プロダクショントミーファイルを後にした。みんなで一緒に吉祥寺駅まで帰るらしい。

「モモさん。素敵な絵を描きますね。どんな絵本のストーリーを考えているの?」

リさんは聞いてきた。

「私・・・まだ考えていないんですよね。」

「え?」リさん、栗田さん、ミキちゃん皆驚いていた。


どうやらモモは自分がワークショップに参加する意義をまだ

わかっていないらしい。


「津田さん。なんでこの子ワークショップに呼んだの?」

リさんは少し不満そうに言う。

「まぁまぁ。リさん。そんなこと言わずに。モモさんは絵本創作活動が

 まだ始まったばかりだから。」栗田さんは言う。

「そうそう。だんだん絵本業界のノリがわかってきますよ!」ミキちゃんが続く。


モモは冷や汗をかいた。でも、新しい出会いがうれしかった。志の同じ仲間であり

ライバルがいきなり3人もできたのだ。

こんな幸せ願ってもない。


店がポツリポツリしまりつつある吉祥寺サンロード商店街を4人は歩く。


「あ。モモさんラインID教えて。」栗田さんが言う。

「私も!」「私も!」ふたりも続く。


モモはこの時のために携帯を買っておいていた。

「はい。お伝えしますね・・・」

なんだかんだ言ってリさん以外はどうやらモモの存在を快く認めてくれたようだ。


吉祥寺の夜はまんまるの月と星が輝いていた。

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