第20話星空の向こう側

モモといとこのゆりはJR吉祥寺公園口で

待ち合わせていた。


「モモちゃん久しぶりー。今日はふたりで

 心の傷を癒そう。」

「うん。ありがとう。ゆりちゃん。」

「井の頭公園の入り口にある焼き鳥屋で飲もうか。」

「いいね。そうしよう。」


ふたりは無言で焼き鳥屋まで歩いた。


ゆりは仕事にゆきずまり、モモは芸術活動にゆきずまり、男にフラれ、セクハラまでされたからだ。

当然のことだが華やかな女子会のようにキャーキャーゆかない。


夜空になりつつある雲ゆきもあやしい。

まるでいまにも泣き出しそうなところをじっとこらえているような

曇り空だ。


「あ。焼き鳥屋についたよ。モモちゃん。」

「ほんとうだ。おいしそう。」

ふたりはささやかな笑顔を見せた。


店に入り席に着いた。


「とりあえず生ビールとネギマたのもうか。」

「いいね。」

「すいませーん。生ふたつとネギマ二本くださーい。」

注文がおわった。


「モモちゃん大丈夫?」

「わ、わたし・・・もう・・・どうしたらいいのか・・・

 わからないの・・・。」

モモの瞳からこらえていた涙がぽろぽろと流れ落ちた。

「また、色んなこと諦めたほうがシアワセなのかな・・・ゆりちゃん・・・。」


「そんなことないよモモちゃん。ここで頑張ろう。私たちの芸術で色んな人を  笑顔にしようよ。つらい現実が待っていたとしても。芸術と向き合って傷つきな がら喜びながら生きよう。」


「私。自信がない。」


「モモちゃん弱気にならないで。モモちゃんから芸術は逃げないよ。線を引き続け よう。音を奏で続けよう。」



「ねぇ。ゆりちゃん。トミーファイルっていう絵本のギャラリーのオーナーが今編 集してる絵本の最後のページにちょっとしたメロディーを掲載したいから作曲家 を探していたよ。」


ゆりもモモを支えたいと思っていたが


モモも自分でいっぱいいいっぱいで

ボロボロになりながらも


ゆりを支えたいと思っていた。


「それ本当?モモちゃん!!私挑戦する!!」

「うん!!ゆりちゃんならいけるよ!!」

「モモちゃんお互いに頑張ろう。」

「うん。頑張ろう。」



「ちょっと酔ってきちゃったね。モモちゃん。」

「うん。そろそろお店を出て酔いでもさますために井の頭公園をあるく?」

「いいね。」


ふたりは店を出て公園を歩いた。

「世の中、どこにチャンスが転がっているかわからないよね。モモちゃん。

 私は音楽の仕事をつづける。」

「頑張って。ゆりちゃん。私もイラストレーターの夢。


 諦めない。」






どうやらふたりが焼き鳥屋で飲んでいる間に

ザーザーと雨が降り

そして止んだらしい。

夜空には星が輝いている。


「ねぇ。ゆりちゃん空見上げて。」

「ん?

 わぁ。星が奇麗!」

「私たちも輝こう。」

「うん。輝こう。」


ふたりは

手を握りあった。

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