拒絶
じ── じじ、じ、と蝋燭の火が揺れる。
火の中に羽虫が飛んでいって、焦げて落ちた。
りいん、と鈴をふるような音がする。
しゃら、と雪のように白い額で歩揺が揺れる。
室には、枯れ木のような腕でリュウシンの短衣をつかみ引き留める病人たち。
切れ長の瞳が冷たく彼らを捉える。
優雅な身のこなしで室に近づくと、憐花はそっと白い手をかざした。
「おやめください」
その声に憐花は動きを止めると、ゆっくりと振り返る。
「手出しは無用です。私がきっと、治してみせます」
暗闇に声の主を認めると、憐花はため息のような吐息を漏らした。
さら、と黒髪が被帛を滑る。
どこまでも艶めいて、息を呑むほどの絶世の美女。
「どこまで強情なのじゃ。そなたとてあやつを認めておろう」
「リュウシンくんのことは感謝しています。あの子を生かしてくださったこと。とてもとても感謝しています。ですがこれ以上は貴女の領分ではない」
柴宿は言い聞かせるように憐花を見つめた。
冷たい風が吹き込み、ゆらりと影が波打つ。
「……それほど人間が愛しいか。そなたを憎み刃を向けても、それでも」
憐花は少しの機微も見逃さぬというように、ひたと柴宿の瞳を見据えた。
柴宿は、一片の躊躇いすら見せず、微笑みながら即答した。
「ええ。愛おしいです、とても」
憐花は吐き捨てるように呟いた。
「そなたは、阿呆じゃ」
柴宿は黙ったまま、静かに微笑んだ。
桜のような笑みだった。
美しく儚いというより、狂おしいほど濃い、春の薫りがした。
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