哀嘆






「爺さん、おい小僧!どうなってるんだよ!助けてくれるんじゃなかったのか!」


「お札も霊薬も効かねえって話じゃねぇか!」


「嫌だ、俺はまだ死にたくない!」


「薬よこせ!よこせよ!」


「子供がいるのよ。もしあの子たちに病がうつったら!」


険しい形相をした人々が柴宿を囲む。


胸ぐらをつかまれたまま、柴宿は辛そうに声を絞り出した。


「この病は伝染病ではありません。予防法もあります。薬の数も限りがあるのです。健康な人にまで薬は回せません」


「嘘だね」


若い男が被せるように言った。


「こんなに大勢バタバタ死んでるんだ。伝染病以外に何があるっていうんだ」


また一人の痩せた男が言う。


「玲瓏山には慈霜草って霊薬がある。なんでも万病に効くって話だ。そんで爺さん、あんたあそこに毎日登ってたそうじゃねえか。薬を独り占めする気だろう!」


声に呼応して怒号が起こる。


柴宿は喘ぐ様に声を上げた。


「どうか聞いてください。あちらを見てください。今、苦しんでいる人たちがいるのです。皆さんと同じように、家族を救いたいと思

ってここにいます。どの人も、誰かにとって大切で、かけがえのない人たちです。どうか、私に彼らを救う機会を」



祈るような声は、しかし誰にも届かなかった。


島を封鎖され、国に見捨てられ、周りを気遣う余裕は、もはやだれにも残っていなかった。


みな、恐慌状態に陥っていた。


「そんなこと信じられるか!その薬をよこせ!」


あっという間に薬房にバタバタと二、三人が駆け込んでいった。


范溙は俊敏に彼らの後を追い、出口をふさぐように立って威圧する。


けれどその後ろで、鍬や鎌をもって震えながら范溙を睨みつける姿を見て、范溙はぐっと立ち止まった。


どの瞳にも、浮かんでいるのは恐怖と悲しみだけだった。


立ち尽くした范溙の横を、怯え、威嚇しながら彼らが走り去っていく。



柴宿はその後ろ姿を、哀しげにじっと見つめていた。










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