閉鎖







その日、彩霞は異様な空気に包まれていた。


渡し場から次々と降りてくるのは、商人ではなく鎧を着た武官たち。


「これより、彩霞からの出入りを禁ずる。何人たりとも島から出てはならん」


ずらりと並んだ武官たちに、あっけにとられていた人々は、一拍置いて顔色を変えた。


「ど、どういうことですか武官様!」


「出入りを禁ずるって、どういう意味です?」


慌てて武官に詰め寄ると、武官らはいっせいに彼らに槍を向けた。


人々はどよめき、仰け反ったまま一歩下がる。


「これは王命である。彩霞における伝染病によって都と民の被害を食い止めるためだ。これより渡し場への道を封鎖する。誰一人通り抜けることはならん。例外はない」


柴宿に頼まれ、市へ物資の調達に出ていた范溙は瞠目した。


太守には何も聞かされていなかった。


とにかく状況を報告しようと、彩霞城へと早足で向かう。


途中、荷物を背負い、走る人々とすれ違った。


どの人も一様に焦って叫んでいる。


「急げ、羅海の渡し場は封鎖されたッ!」


「封鎖命令が出たんだ!あいつら、元気な奴だっているのに」


「俺たちを閉じ込める気だ!」


「彩霞城はもぬけの殻だぞ。みんな逃げやがったんだ!」


最後の言葉に、范溙は足を止めた。


まさか。

まさかと思いながら、そうかもしれないと薄ら思う。


扇で口元を隠した補佐官の、すれ違いざまの細められた目を思い出した。



案の定、彩霞城には誰もいなかった。


范溙は呆然としながら慈善寺への道を歩く。


「下がれッ!」


「通してください!子供がいるんです。お助けください」


「どうかお慈悲を」


「あんまりでございます。ひど過ぎませんか!」


「下がれというに!下がらぬか!」


きぃぃん、という抜刀の音を、范溙は遠くにいるような感覚のまま聞いた。


文字通り、彩霞は国から、『見捨てられた』のだ。


彩霞に封鎖命令が出た、と話すと、柴宿は疲れたように微かに笑んだ。



「そうですか」


とぽつりと呟き、また薬草と医学書に向かった。



何か、静かな覚悟のようなものが感じられた。


もっとも范溙には、このとき柴宿が何を予見し心を決めていたのか、知る由もなかった。








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