泥梨






「道士様、助けてくださいッ」


「薬……薬をくれ……」


「かあちゃん、痛いの?しんどい?」


うめき声、咳、子供の泣き声。


「おい、しっかりしろッ!」


「あんた……どうして……」


悲痛な叫び声、亡骸にすがってすすり泣く声。


傷みかけた床板には、そこかしこに病人が横たわっていた。


一様に白い顔に、枯れ枝のように細い腕で、そして腹に不自然な膨らみがある。


手足には痣が斑のようにあちこちに散らばり、苦しそうに咳き込みながら嘔吐を繰り返した。


柴宿は蒼白な顔をして病人の間をかけ回った。


リュウシンと二人であらゆる薬剤を試したし、范溙も清潔な布や薪、蝋燭の調達などに走り回った。


けれどその甲斐なく、骸は日を追うごとに増えた。


あばらが浮き出て骨と皮だけになった乾いた骸は、悲しむ間もなく新たな病人と入れ替わる。



毎夜、筝が奏でられた。


哀しく途切れて、切なく響く葬送の祈り。


雪はこんこんと降り続き、嘆きの声を奥深くに隠した。












「……これが、原因?」


リュウシンは震えそうな声を飲み込んで、低い声で尋ねた。


視線の先には、濃赤紫の黒ずんだ花がくたりと折れて掌に載せられている。


「恐らくそうです。焼き場で見つけました。どの方の口からも、この花が覗いていました。おそらく、玲瓏山の峰に群生しています」


「でも、こんなの今まで見たことがない」


「これは黒百合です。通常、夏ごろに高山の湿った草地で開花します。この時期に咲くことはほとんどない。おそらく、この病は晩秋に罹患の時期を迎えました。一度実をつけ、種子を散らした黒百合は、玲瓏山を流れる虎狛川を通り、その水源を用いて生活する人々の口へ。種子はその後、体内に残り、発芽。寄生した黒百合は、彼らの気、血、水をすべて吸収し、生長……」


黙って立っていた范溙は、想像して血の気が引いた。


体の中で、自らの養分を吸い取り、血潮をすすり、不気味な花が生長する。


すべてを吸い尽くした花は、死体の口から真っ赤な花弁を覗かせる。


まるで血のように赤く。



それは、悪霊に体を乗っ取られることより、はるかに恐ろしいことに思えた。


覗うように横目で見やると、柴宿も蒼ざめた顔をしている。


「治療法は……?」


「わかりません。予防はできます。野菜や川魚に付着した種子は丁寧に洗いながした上で、加熱します。高火力で熱したものは生命活動を

停止します。けれど、とうに罹患の時期は過ぎました。体内に入ってしまったものをどうすれば……それこそ、腹を切り裂いて取り出すしか方法がありません」


「馬鹿じゃないの、腹を切り裂いたら死ぬでしょ」


リュウシンの言葉に范溙も頷く。


むしろ常軌を逸した発想に、信じられないものを見るような目で柴宿を見つめた。


「西方で腹を切り裂いて病を治すという神術があると耳にしたことがありますが、真偽が定かではありませんし、おそらく架空の話です。生きてはいられません」


「なら?どうするの?」


柴宿は瞑目した。


思いつくはずもなかった。


わかるのは、これまで夜を徹して煎じてきた薬が、根本的な治療には全く役に立たないということだけだった。



赤子の泣き声がした。


軒に垂れていた氷柱がぱきりと音を立てて折

れた。











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