芽吹き
月の冴える美しい夜だった。
玲瓏山の峰を牡丹のような淡雪がちらちらと降り、一輪の花蕾を掠めた。
開きかかった蕾は、妖しい黒。
紅の気配が漂う。
雪椿が舞う。
さらりと長い黒髪と共に姿をあらわしたのは凄絶な美姫。
透き通った肌に睫毛が物憂げな影を作る。
「そろそろじゃの。不吉な種が芽吹く」
憐花はつまらなそうに呟く。
白い指先で開きかけた蕾をぐしゃりと潰した。
慈善寺の方角を見やる。
寺は細々とした明かりが灯り続けている。
愛してやまぬ者のために、彼はおそらく今夜も夜を徹するだろう。
「哀れなものよ」
愉しそうに呟く彼女の眼差しは、愛おしむように甘く、切なく、悲痛に揺れた。
「愚かよの……そなたの愛は届かぬというに」
りいん、と音がした。
夜は静かに更けてゆく。
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