禍の子




目が覚めて一番初めにリュウシンが見たのは、仏頂面をした男の顔だった。


「あ、柴殿。気がつきました」


男が言うと、品の良い老人が近づいてきた。


「お腹がすいたでしょう。粥をどうぞ」


リュウシンは寝台から起き上がると二人をまじまじと観察した。


優しそうな老人と、脇に控えてこちらを見

ようともしない無表情の男。


どちらも自分に害はなさないと判断して、そろそろと粥に手を伸ばす。


「どうぞ」


老人は粥を手渡すと柔らかく微笑んだ。


くう、と小さく腹が鳴って、リュウシンは粥をかきこむ。


老人はリュウシンが粥を全部胃に収めるまで、黙って動かなかった。


「さて、御名前を伺っても?」


老人の言葉に警戒するように目を上げると、老人は答えを聞く前に声を続けた。



「ああ、失礼しました。先に名乗るのが礼儀ですね。私は柴宿と申します」


リュウシンは柴宿という名前にふと顔を背けた。


「同業者か。お前、最近変なまじないで病を治してるっていう医術師だろ」


不機嫌に言うと、柴宿と男は顔を見合わせる。


「同業者というと?」


怪訝そうな柴宿の声に、リュウシンは眉をひそめた。


「お前も持ってるんじゃないのか?癒しの力」


「癒しの『力』?」


ふたたび顔を見合わせる二人に、リュウシンはもどかしくなって立ち上がった。



「な、何をっ」


憤る男を無視して柴宿の指先に小刀を押し当てる。


ぷつりと皮膚が切れて、柘榴のような赤が滴る。


その指先に今度はリュウシンの手を近づけた。


ふわ、と燐のような白い光が柴宿の指を覆ったかと思えば、傷は跡形もなく消えていた。



「これ」


リュウシンが言うと、鞘を抜きかけたまま固まっていた男は、理解が追い付かないのか不自然な体勢のまましぱしぱと瞬きを繰り返した。


抵抗もせずされるがままだった柴宿は、何かを深く考えるように黙り込む。



リュウシンは宙ぶらりんのまま放置されたような気になってさらに機嫌を悪くした。


「ええと、申し訳ないが、私は貴方の仰るところの同業者ではない気がします」


ややあって、柴宿はゆっくり口を開いた。


「二、三、お尋ねしたいことがあるのですが構いませんか?」


リュウシンはむすっとしたまま渋々頷いた。


「まず、貴方の御名前は?」


「……リュウシン」


「その『力』は、今までどなたに使われましたか?」


「覚えてないよいちいち。僕はこの力と引き換えに食いつないできたんだから」



ふむ、なるほど、と柴宿は軽く頷く。


それでは最後に、というと柴宿は口を開いた。



「リュウシンくん、私に医術を学ぶ気はありませんか?」




リュウシンは驚いて柴宿を見上げた。










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