8月号火花を刹那散らせ 2本目 鬼灯1
風呂から戻って
消したはずの行灯が灯っているのが障子越しに見えると
あの人が来ているという証。
あたしは戸口の前で、思いきり頬を緩める。
その後、きゅっと引き締める。
あの人の前で、腑抜けた顔なんて出来やしない。
あたしは、ツンとしたいい女でないといけない。
「いや、来てはったん?」
「なげぇ風呂だな」
煙草を一服ふかして、こちらを見もせずに言う。
風呂道具をしまうと、あの人と寝間に入る。
首筋に口づけて、荒々しく浴衣を開き
乳房に吸い付き、揉みしだく。
いつもの流れに身を任せる。
また、傷が増えている…
事が済めば、何も言わず一服つける。
あたしはその間に
あの人の傷に薬を塗ってやり、サラシを巻く。
その内にあの人は眠ってしまう。
あたしは、眠ってしまったあの人の唇に
自分の唇をそっと重ねる。
世間では鬼と呼ばれるこの人が
あたしの前では無防備に
子犬のような寝顔で眠る。
たまらなく愛しい。
厚い胸に耳を寄せる。
力強い鼓動が聞こえる。
この人が生きていてくれることが嬉しい。
この人が、あたしを愛しているのかは分からない。
たくさんいる女の内の一人かもしれない。
それでもいい。
あたしはこの時のために生きている。
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