2667話 商人ショウザ

押しても引いても、上下左右に動かしても開かない。うん、閉じ込められてるね。まったくもう。五分どころか十分も待ってやったのに。かーえろ。


『水鋸』


ぶち壊してもいいんだけど、穏便に鍵部分だけを斬る。よしオッケー。


「ええっ!?」


さっきのお子様だ。見張りでもしてたのか?


「おや、いたんだ。悪いけど帰るよ。ショウザさん来ないじゃん。」


そしてわざとらしく宝貨を真上に弾く。欲しいだろぉ? 商売人がこんなお宝をみすみす見逃していいのかぁ? んん?


「いい話だと思ったんだけどなぁ。あ、

おっといけない。」


今度は懐からわざとらしくミスリルの塊を落とす。だいたい拳大かな。懐に入るサイズではないが気にしない。


「そっ、それは!?」


ほほう、この子は目利きだねぇ。


「おっ、分かる? メタリックサンドスライムメタル、セティアン砂漠で拾ったんだよね。いやぁでも残念だなぁ。どうも歓迎されてないみたいだし。大人しく帰るとするよ。」


むしろ帰さないって意志を感じたけどね。


「も、もう少しお待ちください! よ、呼んできますから!」


「二分だけね。」


それにしてもこの子ったら……最初は偉そうな喋り方だったのに今はすっかり丁寧になってるね。そんなに私が美味しい獲物に見えるのかな?


二分あれば玄関ぐらいまで行けるだろ。ここで待つとは言ってないもん。えーっと、こっちだったかな。


うーむ、玄関まで着いてしまった。いいのかいいのか? 引き止めなくてさ。帰っちゃうぞ?


「まっ! 待ってください! ショウザ様がお会いになるそうです! こちらにどうぞ!」


おっ、グッドタイミング。


「いや、もういいよ。手間かけさせて悪かったね。帰るとするよ。ショウザさんによろしく。あ、宿はオータルね。」


「ど、どうか! お待ちください! ショウザ様がお待ちしてるんですから!」


だったら回りくどいことしてないで自分で来ればいいのに。どうも大物ぶった野郎って感じがするねぇ。無視して玄関を出る、と……


「ショウザ様がお待ちなのに帰るとはどういうことだ?」

「このような時間に自分から会いに来ておいてそれはないだろう?」

「さあ戻れ。ショウザ様がお待ちなのだから」


フォーマルっぽい服装してやがるけど、こいつらは用心棒か? 荒事が得意そうな顔してるじゃないの。閉じ込めようとするわ帰すまいとするわ、ショウザって何者なんだろうねぇ。


「仕方ないな。会ってやるよ。」


まあいいや。元々会いに来たのは本当だし。多少は揺さぶった甲斐もあったかな。


案内されたのは先ほどとは打って変わって豪華な部屋。いやむしろ豪華というより趣味が悪い。内臓が剥き出しの人体彫刻やら極彩色の風景画やら、成金が手当たり次第集めたにしても趣味の方向性が分からんね。


「ほっほっほ。よく来たねえ。まあ座りたまえよ」


こいつがショウザか。丸々と肥えちゃってまあ。


「いきなり来て悪いね。こいつはほんの気持ちだよ。」


宝貨を弾いてプレゼント。ぴぃんって感じのいい音がするね。


「ほっほっほ。そこそこ裕福なようだねえ。いいとも。数分だけお話を聞きこうねえ」


なんだかなぁ……私を閉じ込めたことはスルーか?


「じゃあ手短に。ついさっき火事が起きたな。火元となった建物はあんたのものらしいな?」


「ほっほ、それがどうかしたかねえ?」


へー、あっさり認めるのね。


「あの建物を商王様直属のボーイェが使ってるのはどういうわけだい? あんたもボーイェなのかい?」


「ほっほほ、何のことか分からないねえ。あそこは使い道がなくて放置していたからねえ。いやあ困ったものだねえ」


ほぉん? そう来たか。


「つまり商王様直属のボーイェともあろう奴らが? 民間の建物を勝手に使ってるってことだな。偶然にも持ち主にばれることなくさ。てことはあの中に置いてあったお宝はあんたの物じゃないってことだな?」


「ほっ、お宝だって? それは難しい問題だねえ。何せあの建物は私のものだからねえ。そこにある物は当然私のものってことになるねえ?」


都合のいいこと言うよなぁ。


「そうかい。重くて運べなかったから放置してるけど、あれはあんたのものってことだな?」


「ほっほ、何かは知らないけどそういうことになるねえ」


「だったら残念だな。あの火事で全部燃えたんじゃないか? 一部ならここにあるけどな。」


ここでまたもやミスリルの塊を見せる。さっきも見せた拳大のやつを。


「ほっ、ほほっほう、メタリックサンドスライムメタルだねえ。そういえば忘れてたねえ。確かにあそこに置いた気がするねえ。いやあ教えてくれてありがとうねえ。明日にでも取りに行くとしようねえ」


どんだけ欲深いんだろうね。


「ふーん、明日も残ってるといいけどね。ボーイェだけじゃなくてチンピラも出入りしてたみたいだからさ。」


「ほっほ、せっかく来たんだから忠告してあげようねえ。ボーイェは恐ろしい組織だからねえ。あまり興味本位でうろちょろしない方がいいねえ? 可哀想なことになるからねえ」


「ありがとよ。じゃ、最後に質問。あんたの商売は何だい? 場合によってはたっぷりと儲けさせてやるよ?」


売れるものはたくさんあるからね。さあ、どうする?

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