2665話 手玉
面倒な時はやっぱこれだろ。
「これを見てみな。一枚しかないけどな。」
宝貨をちらり。
「ほ、ほほう。いい心がけではないか。どら、ちょっと詰所で詳しく話そうではないか。コーヒー飲むか?」
「待て待て、こいつに目を付けたのはオレが先だからな? そこんとこを忘れるなよ?」
「いやいや! 此奴の怪しさを指摘したのはワレが最初だからな!? そうだろう?」
くくく。宝貨が一枚しかないんじゃあそうなるよな。どうもこの大陸の奴らって自分のことしか考えない傾向が強いんだよな。おまけに目先のことしか考えないしね。
「あー、困ったなー。これ最後の一枚なんだよなー。これがなくなったら明日からどうやって暮らしていけばいいんだー。」
演技派の私にしては大根芝居かな。でもこいつらにはこの程度で充分だろ。
「ほほう、それはいかんな。よし、ならば詰所に来るといい。じっくりと相談に乗ってやるからな!」
「待て待て、今週はオレが取り調べ室を優先的に使える番だからな? 忘れるなよ?」
「いやいや! ワレの手柄を掠め取ろうとしてもダメだからな? 此奴はワレが連行するからな!?」
それにしても……思った以上に効いてるな……
私としてはこいつら同士で相談して無罪放免ってのを狙ったんだけどなー。まさかたった一枚の宝貨を巡って争うだなんて想像もしなかったなー。あははー。バカばっか。
「あっ!」
わざとらしくコインを落とす。
『金操』
動かす。燃え盛る建物に向かって転がるように。
「ほほおおっ!?」
「待っ、待てえ!」
「いやいや嘘だろ!?」
さあ、手に入れるのは誰だ?
もっとも、そっちはただの鉄貨だけどな! バルバロッサでリキームさんから貰ったやつだよ。銅貨と比べても格段に価値が落ちるやつ。さあ追え追え。
「てめっ! 邪魔すんな!」
「待てこらぁ! ありゃあオレんだからなあ!」
「いやいやいやワレの手柄だからワレのもんだぞお!?」
いいのかぁ? 市民の皆さんが見てるぞぉ? では私はこれにてドロンといこうか。じゃーねぇー。
『風球』
三人のけつを押してやった。鉄貨に追いつけるようにな。勢い余って火の中に突っ込んでも私は知らないけどね?
ん? 何やら悲鳴が聞こえた気もするけど、気のせいだな。
しかし……困ったな。結局あいつらがどこに行ったか分からなくなってしまった。コーちゃんでさえも……
「ピュイピュイ」
だよね。こんだけ燃えてたらあいつらの匂いなんて消し飛んでるよね。さすがにそこまで警戒したわけじゃないとは思うが……何にしても大人しく待ってた私の負けか。
でも、あいつを凄惨な拷問から救ったわけだしね。無駄足ではなかったね。
さて、どうしよう。行こうか帰ろうか、気分的には帰りたいが、逃げられたままってのが気に入らんなぁ。あ、そうだ。
「ちょっとおたずねしたいんですけど、あの建物って誰のかご存知ですか?」
銅貨を握らせながら野次馬の一人に質問。
「い、いや、こんなもん貰っても……知りませんよ……」
「なら誰か知ってる人に心当たりはないですか? この辺の事情に詳しい人。」
さらに握らせる。
「そ、それなら……ガムスさんが詳しいかも」
ほうほう。聞いてみるもんだね。
居場所を聞き、尋ねた。ちなみにガムスとやらの口を滑らかにするのには現金ではなく
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