2664話 疑惑

奴らが向かった先を追いかけてもいいのだが、ここはゆるりと待とうではないか。でも五分だけね。その間に室内を物色といきたいところだが……椅子とテーブルがあるだけだ。高そうなやつなら貰ってもいいのだが、どう見ても安物だな。とりあえず座って待っとくか。腰は椅子、脚はテーブルへ。気は進まないが魔力ポーションを飲みながら待っていよう。晩飯の前にこんなまずいもん飲みたくなかったけどなぁ……荒事になったらいけないから用心ぐらいしておかないとね。

ぷはぁ、まずい。でも全部飲も。


さて、五分経ったかな。誰も来ないしこっちから行くとしよう。えーっと、あの奥だったな。廊下が見える。


突き当たりに扉があるが、当然のように閉まってる。会う気などないってことか。さては逃げやがったな?


「ピュイピュイ」


あらま。そうなのね。言われてみればほんの少し焦げ臭いかな。あいつら火を着けやがったのか。いや、上役の判断かな? テーブルの近くにはまだ一人転がってるのにさぁ。あいつまだ余裕で生きてるってのに可哀想だねぇ。


「おーい、どうやら火が着けられたみたいだぞ。お前どうする? 助けてやろっか?」


わざわざテーブルの所まで戻ってやったんだぞ。


「う、うぅ……てっ、てめえ!」


なんだよ。ようやくお目覚めかよ。ちょっと腹を蹴ったぐらいで情けない奴め。


「もう一回言うぞ? 火が着けられた。お前は助かりたいか?」


「はあ!? てめっ、何言って……マブかよ!? もう煙が入ってきてんじゃねえか!」


「どっちに逃げる? ちなみにあっちの扉は開かなかったぞ。」


来た道を戻ればいいんだけどね。地下にさ。


「し、下に行くっかねえじゃねえか! オレあ先に行くからよお!」


行動が早いな。もう見えなくなっちゃったよ。地下に何も罠がないといいね。

さて、あいつも消えたことだし、これで心置きなく進めるね。

扉まで戻って……『水鋸』


そこそこ丈夫そうな扉だけど、私を閉じ込めたかったらムラサキメタリックで覆うことだな。ほぉら開いた。あらら、こっちの部屋はもう火の海じゃん。あーあ、ここら辺って建物が密集してなかったっけ? 私の知ったことじゃあないんだけどね。

それよりどっちに行こうかな。どうせなら上役に会いたいしなぁ。


『魔力探査』


うーんだめか。ほぼ反応なし。どいつもこいつも魔力が低いからなぁ……

まあいいや。まっすぐ進もう。廊下っぽいのが見えるし。


おっと『浮身』

天井が崩れてきた。


それにしても……ローランドだと放火ってのはかなりの重罪だったはず。終身奴隷クラスのさ。ここではどうなんだろうね。まあ、ボーイェがしたことだから捜査もされずに終わるんだろうけどさ。


『風球』


もうご丁寧に扉を斬る必要もないだろう。適当な魔法で吹っ飛ばした。

おっ、外だ。あらら、結構人が集まってるじゃん。火事だもんなぁ。


「おい! 大丈夫か!」

「他に誰かいるのか!?」

「どうやら無事のようだな」


「他に二人いたが俺より先に出たと思う。見てないか?」


こいつらは騎士か衛兵か……

それより上役を呼んでこいって言ったのにさぁ。あいつらどこに行ったんだろうね。


「いや知らんな。それより……キサマ怪しいぞ?」

「そうだな。建物が火に包まれているのに平然と出てきおったな?」

「しかも汚れ一つ付いてない。これだけもの火の中にいたのに」


「そりゃそうだろ。さっきまで地下にいたんだから。地下から出たらこの火だぜ? 慌てすぎて逆に落ち着いてしまったさ。」


うーん苦しい言い訳かな?


「地下だと? ここに地下などあったか?」

「知らんな? 我らをたばかろうとしても無駄だぞ?」

「とりあえず詰所まで来てもらおうか。この火についても説明してもらうぞ?」


めんどくさ……

うーんどうしようかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る