2564話 使い捨て

ちなみに武器はカッターの刃程度の小さな刃物。どこにでも隠せる代わりに急所を狙わないと仕留められないやつだね。


「ちょっと試していいかしら?」


あらま、アレクまで起きてきちゃったよ。起こさないように消音を使っておくべきだったな。


「いいよ。何するの?」


「こうよ。」


おお……えげつないなぁ。折れた肘をぐりぐり踏んでる。でも子供は無表情だし声も出さない。


「だめね。心が壊れてるんじゃないかしら。使い捨ての殺し屋ってこういうこと多いわよね。」


「やっぱそう? これじゃあ何も聞けないね。シュガーバはこんな奴らに覚えはある?」


使い捨ての殺し屋かぁ……私も昔狙われたことがあったなぁ。ラブレターで呼び出されてさぁ。


「あー……なんか聞いたことがある気はするけどよお。ありゃあどこだったか……一度狙った獲物は何があっても殺すとかってよお。そいつら失敗しても絶対足が付かねえとも聞いた気がするぜえ」


そこら辺はどこの国でも同じなのか。どうしたもんかなぁ。別にこんな子供が何人襲ってきても問題ないんだけどさぁ、今シュガーバに死なれると少し面倒なんだよなぁ。

母上ならこんな相手からでも情報を取れそうな気もするが……

あ、それなら宮廷魔導士でも同じか? えげつない禁術とか知ってそうだもんね。バルバロッサまで戻るか? いや、それは嫌だなぁ。すでに何回も戻ってしまったもんなぁ。さすがに恥ずかしい。次に立ち寄る時はローランドに帰る前ぐらいでないとなぁ。


「ところでまだ危ない匂いはするか?」


「おお、ちっとは薄くなったかと思ったんだけどよお。まだまだやべえ気がすんぜえ?」


ふーむ、シュガーバの勘が当てになるってのが分かっただけでも収穫かな。こいつはこいつで過酷な隠密稼業を生き抜いて隊長にまで成り上がったわけだしね。そこらの使い捨ての鉄砲玉なんかには負けんわなぁ。


「やれやれだな。そんじゃあシュガーバ、この二人とあの女から分かるだけの情報を聞いておきな。ガキの処理は起きてから考えるわ。」


さっきだいたいは聞いたけど本当にだいたいだもんなぁ。


「ちっ、逆らえねえからやるけどよお……オレだってねみいんだぜえ」


「がんばれ。商都に着いたらたっぷり飲ませてやるからさ。じゃ、おやすみ。」


「ったくよお……」


面倒なことは全部シュガーバに任せればいいのだ。今度こそ寝るぞ。

カムイもありがとな。押さえつけておくのが面倒になったら噛み殺してもいいぞ。まあその辺りの判断はシュガーバがするだろうけどさ。


「ガウガウ」


ありがとよ。寝よ……






翌朝、日の出とともに目覚めたわけだが、特に状況に変化はない。強いて言うなら子供をロープで縛り、そのロープの片方がシュガーバの足に結ばれていることぐらいだろうか。


「ガウガウ」


おおカムイおはよう。早いな。


「ガウガウ」


肉の塊を出せ? 焼かなくていいのかよ。今朝は生の気分なんだな。ほらよ。塊というか牙河馬タスクタマスの後ろ脚だ。私にしては珍しくバラしてあったやつだぜ。大まかにだけど。


「なっ、い、今のは!? い、一体どこから取り出したので!?」


あらら、見られてしまったか。わざわざシェルターを使わず外で寝たのが半分無駄になってしまった。


「もちろん内緒さ。飯の種だからな。」


違うけどね。


「そ、それはそうでしょうな……それよりも、あの子の処遇はどうされるおつもりなので?」


「まあ待ってくれよ。今から考えるからさ。」


シュガーバの話を聞いてからね。まあまだ起こさないけどね。私が朝の運動をする間ぐらいは。




ふぅ……あー疲れた……魔力を通さず不動を振るとクッソ重いんだよなぁ。これはいい修練になるわ。

おっ、ようやくシュガーバの野郎が起きやがったか。さて、どうなることか。

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