2565話 善良な行商人カスワンチ
シュガーバからまとまった情報を聞く。
男二人はマルキン近郊の村出身の行商人で商都を目指しているところ。二人とも手ぶらなのは今回の商都行きがバカンスだかららしい。儲かってんのね。だから人格もまともなのか?
女の名前はツェルワ。あれ? こいつってこんな名前だったっけ? さては昨夜までは偽名を使ってやがったな?
商都からだいぶ南のダラジャ領というところの出身で親の決めた結婚相手が嫌だったのでここまで逃げてきたと。あー、やっぱ偽名だったのか。その途中で子供と出会い、放っておけないので同行していたわけね。その後で二人の行商人と出会ったわけか。
なーんかアレクのカバーストーリーと似てるねぇ。少しだけね。こっちの理由は自由奔放なわがままお嬢様だからってことにしてたけど、実は結婚が理由で家出するってあるあるなんだろうか? 女の一人旅ってかなり珍しい土地柄な気がするんだが……よくここまで無事に来れたな。
当然ながら子供のことは名前すら知らない。見知らぬ子供を保護するとはどんだけお人好しなんだよ……行商人といいこの女といい珍しいこともあるもんだ。それなのに子供、いやガキときたら好意を裏切ったのか単に利用しただけなのか。たぶんこいつらに出会わなかったら直接私達に接触して保護に誘導するって手段も考えてたんじゃないかな。何も喋れない子供が身振り手振りで一生懸命何かを訴えかけてきたら、さすがの私達も手を貸してしまう気がするよね。
「そんでどうすんだあ魔王お? 両肘折っちまったからあんま高くあ売れねえぜえ? まあこんぐれえのガキが好きな変態でもいりゃあ別だけどよお。どっちにしても買い叩かれるとは思うがよお」
売るって選択肢があったか。殺すだけが道じゃないよね。つーかシュガーバの野郎売ることが前提かよ。外道め。
「あの、今さらですが、あなた様はマオウ様とおっしゃるので? 私はカスワと申します。しがない行商人をやっております。こっちは同郷で同業のスワンチです」
「スワンチと言う。短い間とは思うがよろしくな」
二人合わせてカスワンチってか。たぶん言われ飽きてるんだろうね。つーか昨夜の焼肉の時に自己紹介してなかったっけ? もう忘れてしまったな……
「魔王はあだ名みたいなもんだよ。まあそれで問題ないけど。」
「そうでしたか。それでマオウ様、この子の処遇なのですが……もし、差し支えなかったら私どもに買い取らせていただけないでしょうか?」
マジで? 殺し屋って分かってるくせに?
「いいけど理由は?」
「不憫な子を放っておけないのです。実は私、このような子を何人も引き取って育てておりまして……あくまでマオウ様が差し支えなければで構いませんので……」
契約魔法が効いてるから本当なんだろうな。人格者すぎるだろ。一介の行商人にできることじゃないぜ。
「シュガーバ、このぐらいの子供だと相場はいくらだ?」
「あー、健康なら二十万ルピってとこだがよお。こいつ両肘折れてんからなあ。まあ二万ルピってとこじゃねえか?」
やっす。
「じゃあ二万でいいよ。でもどうなっても知らないよ? こいつが暴れるかも知れないし飼い主が現れるかも知れない。そこまで責任持てないからな?」
「心得ておりますとも。真っ当な道に戻してやるつもりです。ではこちは二万ルピでございます」
うーん安い。いつかの酒代よりも安いよ。まあその辺りの事情はローランドでも同じだけどさぁ。マリーなんか三万イェンでも売れ残ったって言ってたもんなぁ。世知辛いねぇ。
「ところでさ、もしかしてこいつの身元に心当たりでもある?」
「いえ、恥ずかしながらそちら方面には疎いものでして……そこらの盗賊からも逃げ回るほとで……」
あー、むしろ盗賊なら知ってる奴がいたかも知れないのか。ちなみにこいつらはこっちに来る時に寝こけてる盗賊を見たらしいが、起こさないように静かに通り抜けたらしい。反撃のチャンスとか考えないのか……善良すぎるだろ……
「ふーん。ところでこいつって商都に入れる?」
「いえ、おそらく難しいでしょう。ですから近くの村で一時的に預かってもらおうかと考えております」
「いや、それなら商都まで連れていこうぜ。少し考えがあるからさ。」
「え、でも入れないと思いますが……」
「だめならだめでいいさ。試してみるだけ構わんだろ?」
「ま、まあ、マオウ様がそう言われるのであれば……」
一応いつもの作戦をやるだけやってみようと思うんだよね。ダメ元ってことで。
結局ガキは若い方の行商人スワンチがおぶることにしたらしい。いきなり首をかっ切られても知らないぞ? まあ両腕とも動かないだろうけどさ。追加料金でポーションを飲ませてやってもいいが、そこまで世話をしてやる気にはならないな。意識を取り戻したらまた襲ってきそうだしね。
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