2563話 妙な子供

なんだつまんない。この女めちゃくちゃ怪しいと見せかけてただの家出女じゃん。行き当たりばったりで行商人と同行してるだけのさぁ。てっきりどこかのボーイェとか殺し屋とかかと思ったら、普通に警戒しまっくてるだけだったのね。女一人で家出したんなら分からんでもないよね。実はいいとこの出か?

子供もただの同行人って言うしどうなってんだよ。つーかこの二人の行商人ときたら見知らぬ人間二人をよくも同行させてるよな。護衛依頼とかじゃないって言うし。なんてお人好しなんだろうね。


「いやあ先ほどは助かりました。本当にありがとうございました」

「あの盗賊どもは寝てたみたいだけど、ありゃあんたらの仕業なのかい?」


「そんなところだ。まあ気にしなくていいさ。それより、ほらそこ。焼けてるぞ。早く食べな。」


感謝の言葉があれば充分さ。


「おっ、おほっ、ありがとうございます。おお、これは美味しいですな」

「まさか目の前で焼いてそのまま食べるとはな。これは商売の匂いがするな」


「真似したけりゃ好きにしていいぞ。」


もちろん簡単に真似できるもんじゃないからね。私の魔力庫だと肉は劣化しないしミスリルボードだと焦げることもないし。しかも岩塩に香辛料は遠慮なく使ってるし。美味いに決まってるよなぁ。しかもこのミスリルボードは浮いてるんだけど、そこには気づいてないみたいだな。


「はっはっは。ご無理をおっしゃる。これはどう見てもメタリックサンドスライムメタルでしょう? どうあがいても真似などできませんな」

「これほど大きなメタリックサンドスライムメタルを料理などに使うとは……理解を超越しているな」


おお、さすが商人。やっぱ分かるもんか。


「おかげでこんなに美味い肉が食えるんだぜ? ほれ、遠慮するな。どんどん焼けるからな、がんがん食えよ?」


「え、ええ、いただきますとも」

「盗賊から助けてもらった礼を言いに立ち寄ったらこれとは。いくら礼を言っても言いたりないな」


この二人はとても真っ当な人間らしい。明日は一緒に商都まで行って昼飯をご馳走してもらうことになったしね。安い店は嫌なんだけど、二人の好意を無碍にするのも悪いしね。


ちなみに女と子供は黙々と食べ続けている。「いただきます」ぐらい言えばいいのにさぁ。




さて、後はもう寝るだけだな。


「俺らはここら辺で寝るからお前らはあそこら辺な。用がない限り朝まで近寄るなよ?」


「心得ておりますとも。では失礼しますぞ」

「おう。ご馳走になったなあ。ありがとうなあ」


これでいい。では……


「おい魔王……マジでそこら辺で寝るんかあ?」


「おう。お前は少し警戒しといてくれたらいいさ。」


シェルターではなく外で寝るんだからさ。


『浄化』


シュガーバだけでなく私やアレクにも使った。


ちなみにミスリルボードは出しっぱなし。重さ的には成人男性ならどうにか持てるだろうが、バランス的は無理だろうよ。魔力庫なしじゃあ盗むのもひと苦労だろうねぇ。


『風壁』

『範囲警戒』


「ごめんねアレク。今夜はここで寝よう。」


「もちろんいいわよ。何か理由があるのよね?」


「うん、その通り。詳しくは明日にでも話すよ。だから今夜はもう寝ようよ。」


「ええ、いいわよ。楽しみにしてるわ。」


『水壁』


ベッドを作った。これなら今夜も安眠だな。後はあの子が……ふぁーあぁ……寝よう……


頼むぜカムイ。上手いこと見張りをな?




ちっ、物音で目が覚めてしまった。どうやら嫌な予感が当たったらしいな。


「おう魔王。お前の勘が大当たりだぜえ? まさかこのガキが殺し屋とはよお?」


カムイに踏みつけられているのは子供。契約魔法はかかってないし一言も喋ってないから怪しいとは思ってたんだよね。それがまさか殺し屋とはねぇ。


子供は無表情でカムイに踏みつけられるまま。抵抗の気配はない。あぁ、両肘を折られてるからか。シュガーバの仕業かな?


「それで、どんな感じだったんだ?」


「それがよお……このガキなんとオレを狙ってきやがってよお? 見ろよこれえ、もうちょいで首の血管スパッとやられるとこだったぜえ?」


ほう、それはすごいな。見た感じ十歳ぐらいだろうに。その歳でシュガーバの首に傷を付けられるレベルか。やるねぇ。


「そんで吐かせようとしてんだけどよお……このガキうんともすんとも言いやがらねえ。両肘ぶち折ったのに悲鳴すらあげねえんだぜ?」


実は喋れないだけとか? 殺し屋向きだねぇ、それも使い捨ての。でもなぜシュガーバが狙われたんだろ? マルキンでそこそこ暴れたからか?


「あ、あの、何事で……?」

「ああ! これはいったい!?」


行商人まで起きてきた。女は高いびきか? いい身分だねぇ。さて、どうしてくれよう……

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