2562話 盗賊と追われた人々

端に寄って通してやろう。狭いし、一緒になって逃げる気なんかないしね。


「いっ、いいのか!? 早く逃げないと!」

「あんたらも逃げるんだ! 若い女は危ないぞ!」

「先に行くから!」


こちらの心配をしてくれる男が二人。そんな男を置いて先に行く女と必死に走る子供。やっぱ魔物か?


「ガウガウ」


あら、人間なのね。てことは今度は本当に盗賊かな?


おっ、足音が聴こえてきた。多いな。十人以上いるんじゃない?


「ひゃっはあー! さっきの奴らより金持ってそうじゃねえかあ!」

「うっひょおー! いい女もいるぜえ!」

「ちっ、ガキがいねえじゃねえか! オレあ先に行くからよお!」


『氷壁』


通すわけないだろ。


「シュガーバ、カラバだと盗賊ってのはどう処理してんだ?」


「使えそうな奴あ奴隷にしてんぜえ? でも大抵は見世物に使うことが多いけどよお。特に火炙りなんか大人気だからよお?」


あー……それがあったか。あんな趣味の悪い見世物が大人気とはねぇ……


「んだあ? 通れねえぞお?」

「盗賊の処理だあ? 生意気なこと言ってんじゃねえぞお?」

「いいから見ぐるみ剥いじまえやあ!」


『麻痺』


ここ最近やたら麻痺ばっかり使ってるよなぁ。でもこれが一番便利なんだもん。


「よしシュガーバ、金目のものを貰っとけ。」


「おう」


いやぁシュガーバがいると便利でいいなぁ。汚い野郎どもの懐を漁らなくていいんだからさ。




「終わったぜえ。こんなもんだろ。こいつらの武器あどうすんだあ? オレあいらねえぜ?」


私だっていらないさ。でもこいつらは生かしておいてもロクなことないしね。かといって街まで連行するのも嫌だ。だから……


永眠ながのねぶり


この場に置いていく。目が覚めるのは二日後ってとこか? それまで生きていられるかどうかは謎だけどね。たぶん無理だろ。




一日歩けば商都に着くと聞いてはいたが、朝から色々あったせいで日が暮れてもまだ見えない。仕方ないからここらで一泊だ。ちなみにシュガーバの嫌な予感はまだ消えてないらしい。気合い入れて夜の見張りをしてもらおうかね。カムイも一緒だから大丈夫だろ。今だって気配を教えてくれている。なるほど、あいつらね。


「おや、もしかしてあなた達は先ほどの?」

「こんな所で会うとは奇遇じゃないか」

「あーっ、いい匂いがするう!」


「それ以上近寄るんじゃねえ。オレらに何の用だあ?」


シュガーバがちゃんと仕事してる。


「い、いえ、用というほどのことでは……たまたま姿を見かけたものでご挨拶をと」


「そうかい。だったらもういいからよお。さっさと行っちまいなあ」


「まあ待てシュガーバ。なあ、よかったら一緒に食べないか? 見ての通りただの肉だけどさ。」


もちろん狙いはあるよ。


「よ、よろしいので?」

「わーい! 食べたい食べたい!」


「いいとも。ただし約束だぜ? こちらの質問に正直に答えてくれよ? なあに、こちらの安全に関わる質問しかしないさ。」


「ああ、それは当然でしょう。いいですとっまぉっおおっおっ……」

「分かっとったぁああっかはっ……」

「いいけど……」

「…………」


ふーん、そう来たか。怪しい女だねぇ。


「そっちの男二人はいいぜ。一緒に食べよう。でもこの女と子供はだめだな。約束してくれないとな。危なくて近寄らせるわけにはいかないな。」


「い、今のは一体……」

「何が起きた……」

「いいって言ったけど……」


いいとは言ったが心の中では約束を肯定してないだろうが。だから契約魔法が反応してないんだよ。本当のことを言う気ないってことだろ? そもそも大抵の奴なら内心とは違っても声に出して首肯してしまえば契約魔法はかかるんだけどね。それをこの女みたいに思ってもないことをさらっと言える奴は……怪しいねぇ。

隣の子供は……よく分からないけど。


「もう一度聞くぞ? こちらの質問に正直に答えると約束してくれたら肉も酒も好き放題だぜ?」


「キーサさん、我々を助けてくれたお方なんですよ……」

「別にやましいことなんてないだろ?」


「ないよー? いいよー正直に言うっよっおっおおっごぼっ……」


よし、かかった。所詮は口約束だと油断したな?


では質問開始といこうか。


『麻痺』


首から下を動かなくした。

では……まずは素性を教えてもらおうか。特にこの女。見た目は二十代前半だが実際はどうなのやら。

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