2561話 シュガーバの嗅覚
さて、今度こそもう用はないな。わざわざ遺体を届けて小銭や貸しを稼ごうと思ったわけだけど、予想以上の収入になったね。おまけに騎士たちとの関係もいい感じになったし。やっぱノーサイドっていい言葉だなぁ。今後に影響するかどうかは分からんが……
「よお魔王お、ちっと警戒しとけえ。なんか危ねえ匂いがすんぞお……」
「そうなのか? 分かった。」
シュガーバがわざわざ言うとは珍しいな。ちなみに言われなくてもある程度の警戒は常にしてるぜ。コーちゃんもカムイもな。だってシュガーバって五百メイルの超ロング射撃ができるんだろ? だったらシュガーバ意外にできる奴がいたっておかしくないもんな。
「すまぬ……あのようなお代官様だが、我らは貴殿に感謝している」
「命を狙った我らに対して見せてくれた慈悲……感服したぞ」
「貴殿とはぜひ一献酌み交わしたい。ぜひまたナーガバに来て欲しい」
効果が抜群すぎない? まさかここまでとは……ノーサイド恐るべし。
「ああ。ありがとよ。次は俺の歌も聴いてくれよな。じゃ、またな。」
騎士たちに手を振られながらナーガバの街を後にする。
「どうだシュガーバ。まだ危ない匂いはするか?」
「ああ。するぜえ……どこのモンかは分からねえが、きっと凄腕のボーイェだろうぜ。いつ来てもおかしくねえ……マジでやべえぞ……」
シュガーバったら青い顔しちゃって。
「危ないようだったら俺かカムイの後ろに隠れときな。でもアレクは守れよ?」
「分かってるに決まってんだろがあ。でもどっから狙ってんのかちいとも分かんねえんからよお。お嬢様も気をつけとけなあ?」
「分かったわ。」
『換装』
くっ……アレクが着替えてしまった。私と同じくウエストコートにトラウザーズ。これはこれで張りのある尻を堪能できて素敵なんだけどさぁ。でも私もアレクと頭部は無防備だから気をつけないとね。アレクはお嬢様が高原を散歩する時にかぶってそうな鍔広で上品な帽子を持ってるけど、あれって今の服装には似合わないもんなぁ。
『風壁』
広めに、そして厚めに張っておこう。どこかから狙撃をするにしてもここらだと城壁ぐらいしかないんだよなぁ。シュガーバは木の上から狙いやがったけど、見渡す限りそんなものはない。他に考えられることと言えば……
「お前らってさぁ、動物に武器とか毒とか持たせて相手を狙ったりする?」
ヒイズルでは鳥に魔石爆弾を運ばせてたが……
「聞いたことねえなあ。そりゃあちっと割が悪いんじゃねえか? あいつら育てんのにどんだけ時間がかかんのかって話だからよお。下手に狙って返り討ちなんぞされた日にゃあ大損害だぜえ? あん時みてえによ……」
シュガーバもあの鳥を天塩にかけて育てたんだろうねぇ。その場にいながらにして遠くの様子を見れるなんて超便利だよな。超距離狙撃とも相性いいだろうし。スポッターって言うんだっけ? そんな役割もできるよなぁ。
「まあよお、だからっていねえとは言い切れねえぜえ? 蛇やら蜂やら使ってる奴だっているかも知んねえしよ?」
「そうだな。その辺も警戒しとこうな。」
私達に毒は効かないけど刺されても噛まれても痛いからなぁ。
先ほどの山道まで戻ってきた。同じ場所で襲ってきたら笑うんだけどな。
「ガウガウ」
さすがに崖の上には誰もいないのね。わざわざあんな所で待ち伏せするなんて今から襲いますって奴らぐらいだろうしね。
まあ風壁を張ってるから蜂は問題ない。普通クラスの矢も問題ないだろう。足元には張ってないから蛇なんかがするりと入り込んでくる可能性はあるけどコーちゃんが何とかしてくれるよね。コーちゃんから蛇をいじめないでって言われてるし。撃退するのはいじめじゃないと思うけどなぁ……
「ガウガウ」
ああ、分かってる。前から誰か来たな。三、四人か。見た目はそこらの行商人って感じかな。えらく慌ててるな。こんな山道を走ると危ないぜ?
「たっ、助けてくれ!」
「いやだめだ! あんたらも逃げろ! 早く!」
「助けてよお!」
どっちなんだ? 魔物か何かに追われてるのかな?
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